約30年で今回も含め6件7人の逃走事件が起きた

最初に5月2日付の毎日新聞の社説を取り上げよう。毎日社説はその中盤で大井造船作業場を次のように紹介する。

「大井造船作業場は1961年に開所した、いわゆる『塀のない刑務所』として知られる」
「ここにいる受刑者は模範囚に限られる。民間造船所の敷地内の寮で共同生活し、昼間は一般作業員と一緒に溶接などの労働に取り組む」
「実社会に近い集団生活の中で協調性や自立心を養い、スムーズな社会復帰を促すという狙いがある。こうした開放的施設は全国に四つある」

こう書いたうえで毎日社説は「大井作業場では、平成に入ってからの約30年で今回も含め6件7人の逃走事件が起きた。監視のどこに盲点があったか、再発防止の徹底が必要なことは言うまでもない」と主張する。

「再発防止の徹底」は毎日社説に指摘されるまでもない。沙鴎一歩がこの毎日社説を評価するのは、次のくだりがあるからだ。

再犯率は6.4%で、全国平均の約40%より低い

毎日社説は「だからといって『塀のない刑務所』の取り組みそのものを否定的に捉えるのは行きすぎだろう」と書き、「法務省によると大井作業場を出所し再び刑務所に入った受刑者の割合は過去10年間で6.4%にとどまる。模範囚が多いとはいえ全国平均の約4割よりかなり低く、上川陽子法相も『再犯防止に大きな意義がある』と評価してきた」と大井造船作業場を評価する。

さらに平尾容疑者の逃走の動機について「『刑務所での人間関係が嫌になった』と供述しているという。刑務官に2度ほど規則違反を叱責されて悩んでいたとの情報もある」ときちんと説明している。

大井作業場以外では、平成に入って逃走事件が起きていない

そのうえで毎日社説は「大井作業場以外の開放的3施設では、平成に入って逃走事件が起きていない。運営方法に問題がなかったか、背景の調査にこそ重点を置くべきではないか」と主張する。

事故や事件が起きた原因を探る場合、その事故や事件を起こした組織や人物の背後まで調査や捜査を行う必要がある。そうしないと、全体像が見えないばかりか、間違った結果を導き出すことにもなりかねないからだ。

今回の逃走事件も同じだ。毎日社説の主張する「運営方法」などの背景にまで突っ込んで調査を重ねていかないと、再発防止には結び付かない。

最後に毎日社説はくぎを刺す。

「法務省が再発防止に向けて設置した委員会では、本人が外せない全地球測位システム(GPS)端末を受刑者に付ける案も出たという。だが、自尊心を過剰に傷つけるような方法は更生の観点からも逆効果だ。施設の目的とは相いれない」

もっともな主張だ。施設の目的は、塀のない開放的な環境下での自立生活を通じて社会復帰を目指すところにある。受刑者の自尊心をいたずらに傷付けるようでは、問題である。