今後はテレビ番組の内容に細かいクレームを付ける視聴者の数は減っていくはずです。どう見ても“暴走”としか思えないようなクレームを行う視聴者の数は、おそらく今がピークではないでしょうか。

今後の日本社会では、高齢になっても働き続ける人たちの数が多くなることが予想されます。健康寿命が延びていることに加え、経済的な理由や労働力不足が重なって、元気なうちは働こうと考える人はすでに増えています。この流れは今後ますます顕著になっていくはずです。そうなれば、テレビにかじりつきながら老後を過ごす高齢者の数は確実に減少します。忙しくなれば、いちいちテレビ局にクレームを入れている時間はありません。

2025年に高齢者となる現在の50代は、現時点の60代、70代世代と違い、普段の生活でネットを使いこなしている人たちです。日本では今後も高齢者が増えていきますが、今後はネットリテラシーのある高齢者が増えていきます。

番組制作のスタイルが変わる

さらに言うと、2025年には番組制作とメディアの関係に変化が起きているはずです。ちなみに、ここでいうメディアとは、地上波、BS放送、ネット配信、パッケージ(ブルーレイディスク)といったコンテンツを発表するフォーマットのことを指します。

『誰がテレビを殺すのか』(夏野 剛著・KADOKAWA刊)

これから数年の間に、地上波で放送するためだけに番組を制作する従来のスタイルは必ず変わっていきます。ビジネスという観点からすると、今後はコンテンツを制作しつつ、編集の仕方を変えて地上波で放送するバージョンとネットで配信するバージョンを用意し、視聴者の好みによって選択してもらうようにならざるを得ないのです。さらに、再編集したものをパッケージにして売り出せば、1つのコンテンツからより多くの利益を生むことが可能になります。これからのテレビ局は、生き残りをかけて、こうしたビジネスモデルを構築していくはずです。

現在の番組制作側が持っている能力は、地上波の枠を完全に上回っています。例えば首都圏の場合、NHKを含めたチャンネル数は7です。つまり1日の放送枠は24時間×7チャンネルで168時間しかありません。日本国内のコンテンツ制作能力をフルで活用しようと思ったら、これではとても収まらないはずです。

配信用の「長尺バージョン」をまず作れ

例えば、2008年にフジテレビが放送を開始したテレビドラマシリーズに『コード・ブルー』があります。2017年には第3シリーズが放送され、2018年の映画化まで決定した大ヒット作品です。このシリーズは毎回10~11話で完結する構成になっています。

この作品について理想を言えば、地上波で放送した後に自社のオンデマンドやネットフリックスなどでも配信することを考えて制作すべきだと思います。つまり、1話90分の長さのロングバージョン用の台本を作り、それに合わせて撮影を済ませ、これをテレビ用に1話45分、10~11話完結作品として編集したものと、ネット配信用に1話90分、20話完結作品として編集したものに分けるのです。こうして2つのバージョンを制作しておきます。