テレ朝女性記者の「実害」は?

福田氏は男女を問わずネタを出さない。取材するなら別の人間に聞くのが有効だろう。テレ朝関係者による説明は、こうだ。当該の女性記者は、上司に福田氏のことを「キモい」と訴え、上司も「それなら取材する必要はない」と了承していた。しかし、福田氏から連絡があったのは、NHKが「森友学園問題で財務省が口裏合わせを要請」というスクープを出した直後だったため、女性記者も、今日ばかりは何か言いたいことがあるのかもしれないと、呼び出しに応じた。ところが、行ってみると、これといった話はなかったという。

これがすべて本当なら、セクハラ以前に、業務妨害と言われても仕方がない。

他方、セクハラというからには、実害が伴わなければ合理性がない。女性記者は、「おっぱい触っていい?」などという福田氏の要求に「ダメです」と答え、福田氏から無理やり触られたわけでもない。発言そのものが精神的苦痛だったというが、その場から逃れられないよう監禁されたわけでもない。

個室で話していたわけでもないのだから、大声をあげてもよかったはずである。仮に彼女がそうした行動に出たとして、テレビ朝日を解雇されるわけでもないだろうし、福田氏が財務省の記者クラブから排除する、などといった陰湿な行動をしたとも思えない。仮に「おっぱいを触らせてくれたら教えてあげる」などと言っていれば、明らかなセクハラだが、そのような事実は報じられていない。

福田氏の発言を擁護するわけではないが、発言ばかりを責めても、もっと深刻なセクハラはなくならないどころか、潜伏化しさらに悪質なケースが横行しかねないと考える。

「深刻なセクハラ」とはなにか

いま話題になっている車中で手を握るとか、エレベーターの中で体を触るというのは、セクハラというより痴漢行為であろう。

では、深刻なセクハラとはなにか。90年代に話題になった米国三菱自動車製造での女性従業員らによるセクハラ集団訴訟の例がある。当時、女性従業員は日常的に男性従業員から性的な行為を強要され、会社公認の「セックス・パーティー」まであったと一部で報じられた。この女性従業員らは、それに応じなければ職を失うという立場にあった。

最近も相次いで報じられている国会議員の秘書や支援者に対する肉体関係の強要なども、秘書はそれに応じなければ解雇される危機にあっただろうし、支援者なら仮に応じたとしてもせっかく築いた仲間との関係が壊れるなどの事態に見舞われたであろう。一般的な職場でも上司の性的要求に対して応じなかったところ、ほどなく左遷されたなどというケースをよく聞く。

こうしたケースは、解雇される、左遷される理由が他にあった、と主張されてしまうことがある。性的要求を拒絶したことが原因であるとの因果関係の証明は難しいことが多い。

テレ朝の女性記者も、関係者から事実上、特定されているとすれば、今後、彼女の取材に応じる官僚は激減する可能性がある。取材に応じない官僚は、その理由を説明する義務もない。

そのように官僚たちから疎外されたとき、彼女はどのような行動に出るのだろうか。それこそ、堂々と「セクハラ」を叫び、出るところに出て、きちんと決着をつけてもらいたい。そうでなければ、今回の彼女の週刊新潮を通じての告発も意味がない。

話を戻すが、発言だけに焦点が偏るのは、こうした実害を伴うハラスメントがまともに議論されず、放置され、事態はさらに悪化するだろう、ということを指摘したいのである。