顧客体験改善とコスト削減は両立する
【遠藤】計測したものをシステムとして活用するためには、カスタマーデータベースが整っていないとできません。NPSが機能するためにはITテクノロジーが鍵となってくるのでは?
【ハセラル】答えはイエス・アンド・ノーです。銀行口座をひらいたり、新しいスマホを使い始めたり、保険金請求手続きをしたりといった、タイミングで顧客満足度を測定するにはITテクノロジーは欠かせません。タイムリーに顧客の体験について聞き、理想的にはその直後からその体験の測定値がわかるようなシステムがあれば理想的です。アジアではまだこのプロセスにITテクノロジーはほとんど入っていません。紙でのアンケートや電話でのヒアリングなどで集めた顧客の声を現場にメールやレポートでフィードバックしています。ITテクノロジーにお金をかければより顧客の声が活かせるというわけではなく、やはりリーダーが顧客体験にどれだけコミットしているか。リーダーが本気なら、その企業に最適な顧客体験改善の手段はおのずと見つかります。
【遠藤】部門ごとの取り組みも大事ですが、本当の顧客体験の問題は、部門間のつなぎ目にあるような気がしています。
【ハセラル】顧客体験には2種類の改善の仕方があります。ひとつはチーム内における改善です。たとえば店長として顧客体験改善のために何をしたらいいか、といった話です。もうひとつは全組織的な改善です。成功している会社は現場での取り組みを全社的に展開するための仕組みがあります。具体的には顧客体験に特化した会議や、クロスファンクショナルチームをつくっての取り組みです。そうした仕組みを使って6カ月、1年など期限を区切り、特定の顧客体験の改善を行っていきます。
【遠藤】部門間の壁を取り払うためにはそうした会議やチームをつくるだけではだめで、その権限をとても強くするなど、“スーパーパワー”が必要ではないでしょうか。
【ハセラル】そうですね。これはKPIの設定の仕方の問題ともかかわってきます。保険会社を例にとると、かつては往々にして売り上げ、注文処理時間、コール処理時間など担当ごとにバラバラのKPIを使っていました。顧客体験の改善という視点でKPIを再定義すると、コール処理時間ではなく、お客様からの電話そのものの数を減らすという発想になります。お客様が知りたいことを最初から伝えるようにすれば、あとで電話して聞かなくてもいいわけですから。顧客体験の改善からKPIを考え直すということは、コスト削減にもつながります。コールセンターのスタッフの教育にお金をかけるよりも、かかってくる電話の数を減らすほうがコストもかかりません。