役員会に「顧客」の席がある会社

【遠藤】成功事例にはどういった共通点がありましたか。

遠藤直紀 ビービット社長

【ハセラル】数千にものぼる導入事例のなかから特に成功した企業を精査すると、4つの共通点が浮かび上がってきました。まず、リーダーのコミットメントです。それがなければ何をどう測定しても何にもなりません。成功している企業では、リーダーが主導で揺るぎのない、真摯な取り組みを行っています。どうやって見分けるか、たとえば顧客ロイヤルティを会社のKPI(重要業績評価指標)のトップ3に入れているかどうかがひとつのポイントです。また、経営者が顧客の声を届けてくれる最前線のチームに対して時間を割いているか、財務諸表よりも顧客関連データのほうをまず気にかける姿勢があるか。そして顧客の声を実際に意思決定に生かしているか。それに基づいて顧客ロイヤルティ向上のために投資をしているか。こうしたことから経営陣がどれだけコミットしているかが見てとれます。ある企業では取締役会のときに「お客様」と紙を貼った空の椅子を用意し、重要な意思決定の際「ここにお客様がいたらどう言うだろうか」ということを常に意識するようにしています。

2番目に重要なことは、信頼度の高い測定ができているかです。自社の提供している顧客体験が競合他社と比べて上なのか下なのか、今後どうやって改善していくのかを判断する材料となるような精度の高い数値をとる必要があります。たとえばわたしが保険会社のお客様だったとしましょう。契約した保険に対して満足しているか、請求手続きはスムーズか、わからないことはすぐに解決されるか、その1つひとつが大切なのです。多くの企業がおかしがちな過ちが測定のタイミングです。お客様が経験を忘れていないときに問いかけをして測定をすることが重要です。体験から6カ月後にアンケートをとっても意味がありません。日々の重要な経験については毎日でも測定する必要があります。

3番目に重要なこと、これが最も大事なのですが、NPSによって吸い上げたお客様の声を全社の隅々で生かすことです。多くの企業は測定しただけで満足し、どうやって改善案策定に使うかまで落としこめていません。NPSをうまく使っているところは、現場の1人ひとりがNPSの測定値を見て、それを改善するために何をしたらよいのかを考えながら行動しています。コールセンターの人も、店頭にいる人も、財務部門の人も、人事部門の人も、バックオフィスのサポートチームも、それぞれの役割において何ができるかを考えるのです。NPSをうまく活用できている会社は、社員1人ひとりが顧客体験を改善するための「自分の役割」を明確に認識しています。

4番目に重要なことは社内に従業員を支援する仕組み(アドボカシー)があるかどうかということです。会社は社員1人ひとりが顧客経験を改善できるようにするためにどのようなサポートが必要か定期的に聞き、それを提供できているかどうかです。