「筋の一本通った生き方」を描いた城山作品

城山三郎さんの著作は、筋の一本通った主人公を題材にしていて、どれも課題図書にしたいくらいです。今回は『粗にして野だが卑ではない』を課題図書にしましたが、読む時間があるならば、ぜひ読んでほしい本を挙げておきます。

『雄気堂々』

渋沢栄一さんの生き方を学べます。江戸時代から明治時代へ。まさに時代の変革期。価値観がすべて変わってしまう中で、ひるむことなく、各方面の改革を手掛けた渋沢栄一。何もないところに新しいものを生み出す恐怖を乗り越え、日本のために最先端のシステムを研究し、取り入れ、根付かせました。銀行、東京商法会議所、製紙、セメント、紡績、鉱山、ガス、電灯、海運、鉄道、織物、牧畜、貿易、倉庫。会社というものをつくり、壊し、失敗し、それでもなお日本の経済の発展のために尽くした渋沢栄一の人生を読んでみましょう。

『男子の本懐』

昭和5年(1930年)に行われた金解禁。日本は世界に立ち遅れ金解禁に踏み切れません。そのせいで円の為替相場が動揺し、慢性的な通貨不足になっています。金解禁に踏み切るには強力な緊縮財政を行い、国内物価を下げねばならず、しかも国際競争力がつく日まで不景気にじっとガマンを国民に強いる政策をとらねばなりません。歴代内閣が必要性を認識しながらも、ことごとく先送りしてきた課題。それに立ち向かったのが、浜口雄幸と井上準之助です。

井上を大蔵大臣に口説くときに「もっとも、この仕事は命がけだ。すでに、自分は一身を国に捧げる覚悟を決めた。きみも、国のため、覚悟を同じくしてくれないか」と言う浜口。首相になった後も、「もっともっと多数の国民のためになる方法はないかと、右からも左からも、上からも下からも考え抜くのだ」と言っていた浜口。それにもかかわらず、浜口も井上も、彼らが愛した国民の凶弾に斃れました。日本の近代化のために命を投げ出すことを、男子の本懐とまで言った男の生き方を読んでみましょう。

『落日燃ゆ』

A級戦犯のうちただ一人の文官、広田弘毅・元首相、外相。戦争防止に努めながら国の運命に流され、かつ一切の弁解をせずに従容として判決を受け入れました。外交官時代から、自分自身の出世のためよりも、国のために役に立つか立たぬかが問題と考え「自ら計らわぬ」生き方を貫き通しました。東京裁判の内幕とこれに対処した広田の揺るがぬ態度には人間の軸の強さが見えます。「日本のどこかに、静かに世界の動きを見る人がなければなりませんね」と死んでいった広田。夫の生き様を理解し、夫の未練を少しでも軽くしようと裁判の最中に自殺した最愛の妻。彼女が死んだ後も、妻あてに広田は獄中から手紙を出し続けます。

「翻訳して検閲を受ける便宜上、広田は手紙を片仮名で書いたが、その最後を『シヅコドノ』と結びつけた。その『シヅコドノ』の文字が見られなくなったとき、つまり広田が死ぬとき、はじめて静子も本当に死ぬ。生きている自分は死の用意をし、一方、死んだ妻を生きている人として扱う。幽明境を異にすることを、広田はそうした形で拒んだ」

こういう人が現代に生きていてくれたら、と思わざるをえない、その背筋の伸びた毅然とした生き方を読んでみましょう。

大岸良恵(おおぎし・よしえ)
人事コンサルタント
ギャラップ社認定コースリーダー、認定ストレングスコーチ。東京大学法学部卒業後、ベイン・アンド・カンパニー、W.M.マーサーを経て現職。2007年から、東京大学教養学部の自主ゼミ「栴檀ゼミ」の講師も務める。東大駒場友の会監事。東京都出身。