「何気なく手に取った一冊で、人生が変わった」。そんな経験のある人は多いのではないでしょうか。雑誌「プレジデント ウーマン」(2018年1月号)の特集「いま読み直したい感動の名著218」では、為末大さんや西野亮廣さんなど11人に「私が一生読み続けたい傑作」を聞きました。今回はその中から慶應義塾大学大学院SDM研究所の前野マドカさんのインタビューを紹介します――。

「幸せの4因子」を理解していると人生が好転する

『幸せのメカニズム』は、私のバイブル。この本で、私の人生は変わりました。著者は、幸福学研究の第一人者であり、私も所属している慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長、そして私の夫でもある前野隆司です。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属SDM研究所 地域活性ラボ・ヒューマンラボ研究員 前野マドカさん

夫は、長い間体系化されてこなかった「幸福」を、客観的かつ統計的に分析。その結果をもとに幸福の因子を4つに分類し「幸せの四因子」と名付けました。夫の本だからではなく、ここに書かれていることをしっかり理解していたらやりたいことに挑戦でき、人生をより自分らしく幸せに過ごせると、私自身が実感しています。

幸せは主観的な要素が大きいからこそ、あえて意識することが大切です。たとえば、健康であり続けるために、食事や睡眠、運動に気をつけるのと同様、幸せも日々意識していないと、どんどん低下します。この本が出版される以前も、夫との会話のなかで四因子について聞いていましたが、書籍になったことでより理解が深まりました。

たとえば、新しいことに挑戦しなければならないときは、どうしても不安な側面を考えてしまいます。ところが四因子を理解していると、とりあえずやってみようと思える。自分らしく取り組もうと前向きになれるんです。

▼「断る理由がわからない」その一言で決意した

いまでは社会と関わりのある仕事をする私ですが、子どもたちが小学生の頃にはPTA役員を8年間続け、最後の1年はPTA会長も務めました。会長職の依頼を受けたとき、当初は「そんな大役はできない」と断ったんです。その夜、夫にその出来事を伝えたところ「そんなすばらしいチャンスを受けないなんて。僕には断る理由がわからない」と言われました。そのとき、あらためて四因子について考え、やはり引き受けよう!と決断しました。

自分がリーダーになったからには、部活動のように楽しみたいと思いました。大切な時間を費やすのだから、子どもたちのためだけでなく、お母さんたちのためにもなるようなPTAにしたい、と。

PTAは、社会の縮図だと思うんです。さまざまな属性と、さまざまな個性を持った人たちの集まり。そこで私が意識的に行ったことは、目標を掲げることと相手を信じること。仲間であるお母さんたちをどれだけ信じられるかは、一番重要なことであり、実は最も難しいことでもありました。

「すべての責任は私が取るから、みなさんはやりたいことを思いきりやってください」と、PTA役員全員の前で伝えました。するとそれをきっかけに、お母さんたちがみるみる変わり、それぞれが自主性を持って、前向きにPTA活動に取り組んでくれるようになりました。

お母さんたちのなかに、期待に応えたい、成功させたいという思いが芽生えたんですね。私はそれに対して、必ず「ありがとう」という気持ちを伝え、声かけを徹底しました。時には不安にもなりましたが、とにかく「その人を信じきれる自分を信じよう」と思って。信頼関係、そして安心・安全な場ができたら、あとはすべてがうまくいくんですね。