ところが私が講演講師として全国を飛び回っている間に、進和建設工業にはいくつか派閥が生まれ、会社の結束力は格段に低下しました。社員の離職率が高くなり、年々伸びていた売上も下降線をたどり、最終的にはピーク時の売上の3分の1に激減してしまいました。人さまのお役に立ちたいと思って始めた講演活動も、いつの間にか天狗になって話していました。

そして、慢心が知らず知らずに広がっていきました。「このままではあかん……」と焦りを抱えていたときに、稲盛先生が書かれた『心を高める、経営を伸ばす』(PHP研究所・1989年)という書籍に出合いました。

この書籍ですが、最初に読んだときには、あまり理解できませんでした。しかし、2度、3度と読み返すうちに、自分の中で腹落ちするものが少しずつ増えていきました。「もっと稲盛先生に教えを請いたい」と思い、稲盛先生が主宰する「盛和塾」に入塾したのです。

稲盛経営3つのキーワードと進和の「3種の神器」

先ほどの稲盛先生の書籍ですが、この20年で10回以上読んでいます。読むたびに、言葉の意味を理解できるようになりました。ある機会に、そのことを、稲盛先生に尋ねてみました。
すると、「西田さん、それは西田さんの心が高まり、すべてを受け入れることができるようになったからです。すべてを自分のこととして、主体的に捉えることができるようになってきたからです」と答えていただきました。

たとえて言うならば、今までは1リットルしか入らなかった器が、5リットルぐらいの器になったということなのです。すると視座が高くなり、問題も見えてくるようになります。問題が出たら格闘するようになるわけです。

さて、稲盛経営について簡単に触れますと、3つのキーワードから成り立っています。企業風土・文化である<心のフィールド>、トップの経営哲学である<経営理念>、そして経営管理システムである<アメーバ経営>です。この3つのキーワードが連結し、相互作用を繰り返す中で、企業は成長するのです。

いっぽう、進和建設工業では、経営の「3種の神器」というものがあります。それは、「理念」「事業発展計画書」「家計簿経営」の3つのツールです。

「理念」は、稲盛経営の3つのキーワードの1つである<経営理念>と同じです。さらに、毎年作成している「事業発展計画書」ですが、戦略の方向性や戦術などについて具体的に書くものです。

事業を成長させるためには、現在のお客さまをよく守り、新しいお客さまを加えることです。さらに、現在の事業や商品に新しい事業や商品を付け加えて、輝ける明日を積極的につくることです。そのためには、自社でないとできない特色や売り物を持ち、他社からお客さまを守り、他社と差別化して自社へご依頼いただくことも大切になってきます。

つまり、長期にわたり事業を継続するためには、次々に商品の柱を創造し、お客さまを開拓していくことが必要です。そのために創造力を磨き、多くの革命的なものを捉える才能を育むことです。会社の繁栄とは、お客さま、社会から強く必要とされる商品やサービスをつくり出すことでしか実現できないのです。