IBMはこの種の対局に備えて安全装置をプログラムしていた。フリーズなど軽微な不具合の際に時間を費やさなくて済むように、単にランダムな一手を打つようにしていて、それがあの意味不明な指し手となった。

もちろん、カスパロフはそんなことを知る由もなかった。ディープ・ブルーに考えがあって奇妙な手を指したと解釈し、悩みに悩んだ。彼はコンピュータのランダムな動きを、天才的で揺るがぬ自信、自分よりすぐれた知性の証しとして読み取った。その結果生じた自信喪失が彼の敗北を招いたといえる。

のちに証明されたように、カスパロフは第2ゲームを引き分けに持ち込むことが可能だったが、敗色濃厚だと感じた時点で、彼は断念してしまった。つまり、自分の能力に自信をなくし、コンピュータの知性が自分を凌駕(りょうが)していると思い込んだのだ。

いつもなら、カスパロフは対戦相手の目をのぞき込み、表情を読むことができた。しかしディープ・ブルーは顔色一つ変えなかった。機械だからたじろぐことさえできなかったのだが、いずれにせよカスパロフの自信を揺るがしたのだった。

「自信度」は知的能力と同じくらい収入を左右する

時には、うわべだけの自信でも、勝敗を分けることがある。ズバリ言うと、成功する人は最初から自信を持っている。そして成功をおさめるにつれ、ますます自信を持つようになる。『エコノミスト』誌がトップ実業家に影響を与える思想的指導者と認めたマーシャル・ゴールドスミスは、次のように語る。

成功する人は同業者に比べて、自己を買いかぶる傾向が強い。私が主宰する研修プログラムに参加した5万名以上を対象に、仕事ぶりをどう自己評価しているか調査したところ、80~85%の人は、自分が同業者の上位20%に位置すると回答。また、70%の人は上位10%に位置すると回答した。回答者が外科医、パイロット、投資銀行家など、社会的認知度の高い職業に就いていると、自己評価はさらに高まる傾向にあった。

一流実業家のなかに、自信不足の者はまず見られない。今日、各家庭に明かりをともしている発電・送電システムの開発で知られる電気技術者ニコラ・テスラは、署名をするときに自分の名前ではなく、「GI」とサインすることで知られていた。GIとは、「偉大な発明家(Great Inventor)」の略であり、謙虚さとはあまり縁のない人物だったことを物語る。
また、『自己評価と収入の関係』と題する研究によれば、自信度は少なくとも賢さと同程度に、最終的にその人がどれほどの収入を得るかを左右する重要な要素だという。