日立から経団連会長が生まれた理由

また、経団連会長は、慣例で副会長から昇格することになっているが、現在の副会長陣をみると、中西氏以外に適任者はいない。いくつか有力候補となる企業はあるが、このうちトヨタの早川茂副会長は将来の経団連会長待望論が強い豊田章男社長を差し置くことはできず、新日鉄住金の新藤孝生社長も三村明夫相談役が経済3団体の一角を占める日本商工会議所の会頭であり、候補から漏れる。不正会計問題と経営再建に解体的出直しを迫られている東芝、さらに実質国有化された東京電力ホールディングス(HD)という、かつて会長を出した重鎮企業もいまや経団連活動どころではない。

そう考えると中西氏の起用は「対抗馬なき本命中の本命」(経団連関係者)であり、会長候補がいないという経団連の事情を色濃く反映している。

一方、なぜ電機最大手の日立はこれまで経団連会長を出してこなかったのだろうか。そこには日立独特の事情がある。経団連の元事務方役員は「日立は副会長を引き受けても、会長には絶対ならない伝統があった」という。

経団連内には中西次期会長の選出に安堵感をもつ人間が少なくないようだ。「製造業出身」という“縛り”による担い手難から、前会長の米倉弘昌氏、榊原会長はともに副会長でなく、評議員会、審議員会の議長からという異例の起用だった。議長職は経団連ナンバー2とはいえ、実質的に有力副会長の“上がり”のポストで、会長の「ご意見番」にすぎない。しかも、米倉氏は住友化学、榊原会長は東レの出身と、旧三大財閥系から会長は出さない“禁じ手”を破って選任された。

異例づくしの会長人事が2代も続いた経緯から、次期会長が独立系の日立出身に落ち着き、「正常に戻った」(経団連関係者)という本音も聞かれる。