答える側は「どこの社か」を考えて回答する
マスコミは大きな選挙の時は電話による情勢調査を行う。突然自宅に新聞社、テレビ局から電話がかかってきた経験のある人も少なくないだろう。調査方法は、社によって微妙に違うが、電話に出た相手に社名を伝え、性別、年齢などを確認したうえで選挙の投票先も含めて数問を聞くというパターンが多い。
答える側は意識的、無意識にかかわらずどこの社から聞かれているかということを考えながら設問に回答していくことになる。沖縄県の場合、琉球新報、沖縄タイムスの新聞2紙がシェア1位を争っているが、この2紙の論調は比較的似ている。翁長雄志知事に好意的で、普天間飛行場の辺野古移転には反対の立場だ。この2紙から電話がかかってくると、どうしても、移転推進派に投票するとは言いづらい。いきおい、意に反して、反対派の稲嶺氏に投票すると答えたり、回答を拒否したりする人が出てくる。
今回の名護市長選でも、マスコミの調査に「稲嶺氏」と答えた人の中に相当数「隠れ渡具知支持者」は混じっていたといわれるし、回答しなかった人の多くは渡具知氏に投票したことは容易に想像できる。
「トランプ現象」と傾向は同じ
このような現象は沖縄以外でもある。各メディアが定期的に行っている世論調査もそうだ。朝日、毎日など安倍政権に批判的なメディアが調査をすると、安倍政権支持層は回答を拒否したり、自分の思いとは違い安倍政権不支持と答えたりする傾向が出る。政権に近い読売、産経などの調査では、その逆の傾向が出る。その結果、朝日、毎日などの調査では内閣支持率は低めに出て、読売、産経などは高めに出る。
SNSでは「新聞社が都合よく数字を操作している」というような書き込みをしばしば見かけるが、数字を操作することはなくても、結果としてそれぞれのメディアの論調に近い傾向が出るものなのである。
これは日本だけの傾向ではない。2016年の米大統領選では大部分のメディアは民主党のヒラリー・クリントン氏優勢としていた。これは、それぞれの社の調査に基づいている。ところが結果は、まさかのトランプ氏の勝利。クリントン氏に肩入れしていたアメリカの大手メディアの調査では、どうしてもクリントン氏支持の数字が強く出てしまったのだ。
昨今、このような世論調査のバイアス(偏向)は、学界でも問題視されることが多いが、名護市長選では、そのバイアスが顕著に表れたということになる。
期日前調査の限界
情勢調査、世論調査の限界を補完するためにマスコミ各社が力を入れているのは、期日前投票の出口調査だ。有権者は、投票日の前にも投票することができる。その手段が期日前投票だ。投票を終えた人を待ち構えてどちらに投票したかを聞くのが期日前投票の出口調査。電話による調査では、せっかく回答を得てもその人が投票に行く保証はない。しかし、投票直後に直接面接して質問すれば、確実に「投票した人」から聞き取りできるので誤差が少ないということになる。
今回の名護市長選でも、各社は「期日前出口」に力を入れた。しかし、ここでも新たなバイアスが生じ、読み違えることになる。