原価と費用と損失は相互に密接に関連

さて、理由を考える前に理解しておかないといけないことがある。それは、原価と費用と損失の違いと関係である。原価が下がっても、原価低減活動が直接・間接に費用や損失を増加させるなら、企業の収益性は改善されない。つまり、原価低減だけではなく、費用や損失も含めたトータル・キャッシュアウトフローの管理が必要なのである。

原価=製品やサービスを生み出すために必要となる金額。材料費や加工費などから構成され、原価計算の対象となる。原価の管理は、製造業であれば、主に工場で行われる。
費用=生み出された製品やサービスの販売促進などに使われる販売費や一般管理費(給与、運送費、など)を意味し、主として、本社で予算管理によって管理される。支払利息などの営業費用を含む。
損失=収益獲得に貢献しないキャッシュアウトフロー。賠償金支払額、固定資産売却損、リコール費用などを含む。損失の多くは、経営上の意思決定の(結果的な)失敗によって発生するので、損失を発生させる可能性のある部署で管理する必要がある。タカタのエアバッグのような問題は、発生してからでは遅すぎる。

ここが大切なのであるが、原価と費用と損失は相互に密接に関連しているという事実である。原価低減に成功しても、それが費用を増大させることがある。例えば、原価低減の結果、消費者が望む機能が製品から剥ぎ取られ、それによって売り上げが停滞した時、なんとか、その製品を売りさばくために、キャンペーンを実施し広告宣伝費がかさむといった場合である。

また、原価低減の結果、販売後に品質不良が明らかになり、原価低減額を大幅に上回る多額の損失(リコールや損害賠償の費用など)が発生することもある。つまり、原価低減に成功しても、予想外の費用や損失が生じれば、企業全体としての収益性は悪化するのである。このような事態を招かないように、製造現場では細心の注意を払って原価低減活動に取り組んでいる。それにもかかわらず、原価低減に成功した製品が売れるかどうかはわからない。また、予想外の損失の発生は製造現場だけではコントロールできないのである。

不良の原因の多くは、企画・開発・設計段階で発生している。原価と費用と損失の管理は、組織内の異なる部署が担当していることも、この問題をさらに深刻なものとしている。