会長は次期社長の経営に口を挟まない

――会長と社長の役割分担とはどういうことですか。

【山西】当社は指名委員会等設置会社の中でも、取締役会と執行役の機能を徹底的に分離しています。取締役会は、社長をクビにすることはできますが、経営の執行は社長に任せています。会長は次期社長にバトンを渡した以上、経営に口を挟むことを厳に慎んできました。こうした互いを信頼した役割の徹底分離を代々のトップが守ってきたことが、風通しのいい経営陣をつくり、これまでの業績につながったのだと思います。

――山西会長は経営の要諦として、「現場」「現実」「現物」の3現主義に、4つめの「現役」を加え「4現主義」を掲げられています。

【山西】ガバナンスの要諦は「自分の責任を全うするとともに、責任範囲以外のことには口を出さない」ということだと考えています。全社に「4現主義」を徹底するには、まずは経営者自らが率先してこのルールを実践することが必要です。

▼経営陣は、異種の知で構成するべき

――山西会長が社長時代、経営陣の風通しをよくするために特に心がけてこられたことはありますか。

【山西】たとえば三菱電機では各本部の本部長になると執行役を兼務します。その執行役は「三菱電機の執行役」として、企業全体の視点で経営判断をすべきです。しかし本部生え抜きの人材は、「各本部の利益代表」という発想から抜けられないこともあります。このため他の本部から抜擢する人事を意図的に行ってきました。また、常務クラスが集まって経営課題を議論する場もつくっています。こうして次の経営層の人材に厚みをつくっておくことが将来の三菱電機の役に立つことだと思います。

――生え抜き部門以外の長になる経験は、経営陣のキャリアとしても重要なのではないでしょうか。

【山西】その通りです。経営陣の役割は、異種の知を集めて、逆風に強い企業をつくることです。三菱電機の強みは、さまざまな業種のお客様を持っていることです。長年生産技術に携わってきた私は、ある業界で当たり前のことが、別の業界では新鮮なヒントになり、大きな成果をもたらすことを実感しました。異種の知なくしてカイゼンはないのです。経営陣自体が異種の知で構成されなければなりません。