ルールは「守るもの」ではない「つくるもの」だ

かつては、技術的によいものさえつくれば売れた、日本が得意とする「モノづくり」の時代がありました。その後、モノが余るようになると、モノを使うことによって得られる経験価値の共有が競争力の源泉となり、「コトづくり」の時代に変わりました。そして現在は、社会に対してイノベーションを起こすために、既存のルールをつくり替える「ワクづくり」の時代になったと言えます。モノやコトだけでなく、それらを取り巻く枠組みを考えることが、ビジネスの勝敗を左右するのです。

ルールメイキング戦略が当たり前に行われている欧米では、ルールメイキングの業界があり、政治家や官僚と太いパイプを持ったロビイストや企業の戦略担当者たち、いわばルールメイキングの専門家たちがコミュニティを築いています。日本企業も、そのコミュニティの人々と人脈を築き、ルールメイキングの土俵に上がれるようになる必要があります。

ルールメイキングは、経済安全保障政策とも関わっています。例えば、中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」は、関係国との経済連携を強化することで、中国企業が進出しやすい機会をつくっています。一方、EUはASEAN(東南アジア諸国連合)と協定を結び、EUのルールを導入しようとしています。自国のルールを他国に適用させることで、自国の製品・サービスを売りやすくするためです。

日本においても、日本の権益を拡大するために、政府と企業が連携して行動することが必要です。しかし、この点において日本企業は消極的です。日本人のメンタリティとして、法律は政府が決めるもので、多少陳情はしても、決まった後は従うのみ、という意識が根底にあるからです。政府と関わると癒着につながりかねない、というマイナスイメージもあります。そのため、政府と一緒にルールをつくっていくという姿勢になりにくいのです。

日本では「ルールは守るもの」であるのに対して、欧米では「ルールはつくるもの」です。未来のビジョンを構想し、その実現のために必要なルールはつくり、現在のルールが合わないのであれば、つくり替えようとします。そのため、往々にして欧米がつくったルールに日本が合わせていくことになります。

日本の対EUロビイストの草分けであり、経済産業省通商政策局に「ルール形成戦略室」を創設した藤井敏彦氏によれば、欧米人は未来を見据え、今はできないことでも「そのうちできるようになるから」とルール化してしまうそうです。日本人は真面目ですから、今できることしか言いません。その結果、欧米のほうが、より進んだルールができやすいそうです。こうしたカルチャーの違いを理解したうえで、欧米と対等に議論していくことが、ルールメイキングの場では求められます。

▼モノづくりからワクづくりへ
モノづくり:技術

コトづくり:経験価値

ワクづくり:ルールメイキング