温水洗浄トイレの普及で、オシッコの時でも便座に座る男性が増えているのも事実です。排尿のあとでも、肛門にシャーシャーと温水をかけているのです。そのたびに肛門周囲の常在菌は流されて皮膚が中性になり、角質がバラバラになって、肌荒れを起こすようになります。すると、大便のなかにいる腸内細菌が肛門付近の皮膚にくっつきます。腸のなかにいればよい働きをしてくれる細菌も、自分の居場所から離れると本来の仕事を忘れ、悪さをはじめます。その腸内細菌が炎症を起こし、肛門が痛くなったり、かゆくなったりするのです。

ペーパーで優しく拭いてあげるのがいちばん

人の皮膚は、洗いすぎれば汚くなります。洗いすぎによって常在菌もおらず、アルカリ性に傾いた皮膚は、バイ菌が繁殖するのに格好の環境です。それは、みなさんが考える「不潔」な状態ではないですか?

肛門に痛みやかゆみを感じている人は、まずは温水洗浄トイレの使用を控えることです。最初は、きれいになったのか不安もあるでしょうし、お尻が温水シャワーの心地よさを求めもするでしょう。でも、そこを踏ん張って、ウンコをしたらペーパーで優しく拭いてあげるだけにすることです。それが肛門を清潔に保ついちばんの方法です。

また、入浴時に肛門をボディソープなど合成界面活性剤の入った洗剤でゴシゴシ洗うのもよくありません。お湯で優しく洗い流してあげるだけでじゅうぶん。とくに、肛門に炎症が起こっている際には、洗いすぎないことです。皮膚の新陳代謝のスピードは、約28~56日とされています。ですから、2カ月もすれば、かゆみのない肛門をとり戻せることでしょう。

ビデで膣炎になる女性が増えている

温水洗浄トイレにハマっているのは、男性ばかりではありません。女性も「ウォシュレットがなくては生きていけない」という人が増えています。ただ、女性で「ウンコのあとに肛門を洗わないと痛くなる」という人は少ないようです。女性の皮膚常在菌のほうが強力なのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。女性は、「ビデ」機能を使って、もっぱら「前」のほうを洗っているからです。

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最近、女性の膣炎が増えています。この原因も洗いすぎによるものです。

日本の女性は、歴史上、膣をビデで洗う経験はありませんでした。「洗えばきれいになる」と、オシッコのたびに膣を洗うようになったのは、ウォシュレットが販売された1980年以降のことです。

しかし、膣も「洗いすぎれば汚くなる」のは同じことです。女性の膣には、デーデルライン桿菌という乳酸菌がいて、膣をきれいに保っています。この菌は、膣のグリコーゲンをエサにして膣内を酸性に整えます。つまり、正常な膣は酸性なのです。

酸性の場所では、雑菌は増殖できません。原始時代、ろくに体を洗っていない男性と雑菌だらけの環境で交わっても、女性は膣炎になどなりませんでした。デーデルライン桿菌が膣を酸性に保ってくれていたからです。