※本稿は、藤田紘一郎『手を洗いすぎてはいけない』(光文社新書)の第4章「マスク大好き日本人の愚」を再編集したものです。
温水洗浄トイレで肛門に菌がつく
2020年、東京オリンピックに向けて、トイレメーカーはその経済効果に期待を大きく膨らませているそうです。温水洗浄トイレの市場が、海外ではまだまだ広がっておらず、多くの外国人に温水洗浄トイレの心地よさをアピールするよいチャンスになると、トイレメーカーは考えているようです。
しかし、はたして外国人が公共施設で温水洗浄トイレを使い、「購入しよう!」と思うのか、私は少々疑問です。高級ホテルだけでなく、スーパーや駅のトイレにまで温水洗浄トイレが設置されているのは、日本くらいのもの。海外に出たら、そんなトイレを探すのはとても大変です。
これまで述べてきたように、日本人の超清潔志向は世界一です。温水洗浄トイレを使い慣れていない人たちが、大便のたびに温水で肛門を洗いたがるのか、ましてや見ず知らずの大勢の人が使った、ノズルから出る温水を心地よいと感じるのか、と思ってしまうからです。
それにしても、日本人の温水洗浄トイレ好きはいきすぎです。私はインドネシアに医療調査に約50年間通い続けました。その際、いつも若い研究者を連れていっていたのですが、いつしか誰もついてこなくなりました。日本人の清潔志向が異常さを増すにつれて、一緒に来るのをみなが嫌がり、誰も「一緒に行きます!」と言わなくなったからです。
理由のなかには、「ウォシュレットがない」ということもありました(一般名のように定着している「ウォシュレット」はトイレメーカーのTOTOの商品名で、INAXは「シャワートイレ」という商品名だそうです)。
肛門が痛いのに、温水をかけるのは逆効果
「ウォシュレットがないと、ウンコをしたあとでお尻が痛くなる。ウォシュレットがないところには行くことができない」というのです。
日本の男性に、大便のあとに温水洗浄トイレを使いすぎて「お尻が痛くなる」人たちが増えてきています。使いすぎると、肛門周囲の皮膚常在菌が少なくなり、ただれたり、かぶれて血が出たりして、肛門専門の医療機関を受診する人も多いと聞きます。そういえば、私の教え子たちにも、ただでさえ肛門が痛いのに、わざわざ皮膚常在菌を減らす温水洗浄トイレを探して駆け込む者がいました。
温水洗浄トイレの恩恵は、多くの痔の患者さんを救ってきたことにあるのでしょう。しかし過度に使えば、その強い水圧で肛門付近にいる皮膚常在菌を洗い流してしまいます。
「使いすぎはよくないよ」とうながしても、愛用者たちには私の思いは届かず、「気持ちよくてやめることなんてできません。藤田先生も愛用すればそのよさがわかります」とかえって熱弁をふるわれてしまいます。