相手の話をしっかりと聞き、相手から信頼感を得られるような関係になれば、そのときは自然と、自分の価値観が絶対ではないという境地になっていることでしょう。

「禅の庭」をつくるときに、私は時折、「山是山、水是水(やまはこれやま、みずはこれみず)」という禅語を思い出します。意味するのは、「山は山として本分をまっとうし、水は水として本分をまっとうしている」ということです。山が水に対して「山になれ」と命令することもなければ、水が山に向かって「水になれ」と指図することもありません。

禅の教えは、人の社会全般に当てはまります。「山是山、水是水」を人間関係に当てはめるなら、自分が山なのであれば、水である相手が山になるように求めてはいけないし、自分も水になろうと頑張る必要はないということになるのです。山は山として、水は水として本分をまっとうするのが美しいのであり、自然は当たり前のようにそうしています。

常に「水平の視線」で人を見る

禅では、人と自分について、「人は人で絶対、自分は自分で絶対」と考えます。絶対という意味は、「いま、ここに、命をいただいて、過不足なく生きている」ということです。人も自分も、ともにそのような存在なのです。過不足なく生きている誰かに、「ここが足りないじゃないか」などとはいえないのです。

「人は人で絶対、自分は自分で絶対」ということを意識して、誰に対しても、「水平の視線」で見るようにしてみましょう。視線を高くして見下ろせば、人は小さく見えますし、視線を低くして見上げれば、人は大きく見えます。どちらも相手を正しく見ることになりません。

常に水平の視線で人を見ることを心がけ、そのように努めていく。それを怠らないことで、人は人、自分は自分ということが身体でわかってくる。つまり、実践できるようになるのだと思います。

枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶
1953年、神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣(当時)新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受賞。2006年、「ニューズウィーク日本版」にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授。著書に『スター・ウォーズ 禅の教え』(KADOKAWA)、『禅シンプル生活のすすめ』(三笠書房)などがある。
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