「異端児」が始めた新たなルール作り

ところが電気自動車(EV)の開発で先行しているのは新興企業の米テスラだ。同社のイーロン・マスクCEOは米トランプ大統領の政策助言機関のメンバーも務めていたほどで、政界へ大きな影響力をもつようになった。またIT産業の雄である米グーグルも自動運転の開発を始めている。こうした新規参入組、いわば業界の「異端児」が新たなルール作りに動いている。

こうした新規参入組の特徴の一つは、クルマを移動手段と割り切っているところにある。これまでクルマとは所有欲を満たすものであり、自分の個性や感性、時には資産の有無を示すものだった。移動するだけではなく、運転そのものを楽しむものでもあった。だが、クルマを「移動手段」と割り切ることで、乗り心地よりも価格重視、所有するよりもシェアしたいといった、これまでになかった消費者の価値観が表れている。こうしたユーザーが増えれば、これからもどんどん新しい技術やサービスが生まれるだろう。もしかしたら『西遊記』に出てくる、空を飛んで自由に移動できる「キン斗雲(きんとうん)」のようなクルマも登場するかもしれない。

このようにさまざまな局面で変化が進みつつある状況では、伝統的な自動車メーカーの価値観や理屈にとらわれていると、時代の変化に付いていけないし、肝心の消費者の心をつかむこともできない。拙著の問題意識はこうした点にもある。自動車会社のエンジニア、営業、人事、企画といったあらゆる職種の働き方も大きく変わってくるのではないだろうか。

エンジニアの働き方については、世界ではこんな動きも起こっている。

「ユダシティ(UDACITY)」という会社をご存じだろうか。どこかの街の名前ではない。日本ではまだ知る人は少ないと思われるが、これは企業名である。

2011年に設立され、米カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置くオンライン教育のベンチャー企業だ。ベンチャー・キャピタルから、これまでに200億円近い投資を受けている。主な事業内容は、人工知能やセンサーなど自動運転に関する教育コンテンツをオンライン上で提供することだ。

創設者はグーグルで自動運転担当役員を務めたセバスチャン・スラン氏だ。氏はスタンフォード大学で人工知能を研究する教授だったが、グーグルに転じ、革新的技術開発を狙う専門チーム「グーグルX」を立ち上げたことで知られている。グーグルでは眼鏡型端末(グーグルグラス)や自動運転の開発に取り組んだ。

ユダシティの目標は世界中から優秀なエンジニアを集め、教育することにある。現在、約200のカリキュラムがあり、初級から上級まで幅広く約400万人が登録しているという。その内容はといえば、自動運転カリキュラムでは、人工知能のソフトウェア開発やセンサー技術、位置測定技術、走行経路検索技術などが中心となる。

受講に当たっては、英語で講義が進むので、TOEIC600点以上、線形代数学、物理、プログラミングの基礎知識が必要になるとされる。認証制度も設けており、9カ月程度の受講期間が終われば修了証が発行される。人材サービス会社と提携しているため、米国だと、このカリキュラムを修了したエンジニアは転職などによって、より高い賃金を得やすくなるという。受講料は2400ドルだが、無料のコースもある。企業からの要望に応じて、育成プログラムを個別に組むケースもあるという。