これに対し、社員の「就社意識」が色濃く残る日本企業で“同じ釜の飯を食う”ということは、社員をどんな心理状態にさせるだろうか? 「あの人にお世話になった」「あの人がいなければ今の自分はない」「あの人には頭が上がらない」というような恩人の存在も、1人や2人ではないことは容易に推察できる。
企業組織内に持ちこまれた「家族的」なるもの
これまで日本企業の人事は、企業という名のコミュニティーに対する社員の帰属意識を、強化する取り組みを続けてきた。これは社会心理学では“集団凝集性”と呼ぶものだ。ある集団において、メンバーの
“帰属意識”
“まとまり感”
“忠誠心”
が強ければ、「集団凝集性が高い」といえる。
では、集団凝集性はどうすれば高くなるのか。それには3つの要素が関係する。その集団における(1)「活動内容の魅力」、(2)「対人関係の魅力」、またその集団の(3)「社会的威信の高さ」 である。
簡単に言い換えると、
(1)「手がけている仕事が面白い」
(2)「人間関係が良好で、尊敬できる先輩や上司がいる」
(3)「あの会社に勤められて羨ましいと社外の人間から言われる」
ということである。
日本企業の人事は、これらの3要素、特に(2)を中心に高めるよう、企業組織に“疑似家族”の要素を持ちこんだ。
具体的には、日本が奇跡的な経済復興・成長をけん引した人事施策、
「終身雇用制度」
「年功序列型賃金」
「企業内組合」
という三種の神器、施策の存在である。
日本は戦後、経済を立て直すため、働き手を大量にかき集めてずっと雇用していくことを続けた。これは当時の日本企業における最重要の人事施策であり、政府も傾斜生産方式(当時の国家にとって最重要な産業に対して、集中的に経営資源を融通すること)の採用によって後押しした。
そうして戦後の日本企業は、経済による復興を成し遂げる過程で、組織内の個人を集団の中心へと引き付ける力をますます強化していったのである。