誰もが風邪をひくように“心の風邪”といわれる「うつ病」は、決して特別な病気ではなく、誰にでも起こりうる病気である。

 「気分が落ち込んで何もする気になれない」「自分に自信が持てない」と感じることは誰にでもあるが、それは単なるうつ気分。うつ病の場合は少なくとも気分の落ち込みが2週間以上続き、それ以外のうつ症状が複数表れるのが特徴である。

 「気分が落ち込む」以外の症状としては、「不安」「焦燥感」などの感情の乱れがある。それが「やる気が薄れる」「根気がない」などの意欲の低下に結びつき、「考えがまとまらない」などと思考力をも低下させてしまう。

さらに、「眠れない」「食欲がない」「だるい」など体にも不調が表れる。

このようにうつ病の症状は千差万別ではあるが、風邪と同じで「変だぞ!」と感じたら、すぐにうつ病を専門とする精神科を受診すべきである。早期発見、早期治療は早期回復を約束してくれる。

また、最近はうつ病の原因が脳内のメカニズム障害にあることがわかってきた。

人間の脳内には1000億個にものぼる神経細胞があり、絶えず情報を伝達し合っている。より正確に書くと、神経伝達物質の受け渡しによって情報の伝達が行われている。そのなかでもセロトニンやノルアドレナリンが重要な働きをしている。神経細胞と神経細胞の間にはシナプス(連結部)があり、そのシナプスに神経細胞からセロトニンやノルアドレナリンが放出される。すると、それらの物質が次の神経細胞の受容体に結合し、情報が伝わっていく。

役目を終えたセロトニンなどは元の神経細胞の末端に取り込まれ、再度シナプスに蓄えられる。このとき80%が蓄えられるのである。

ところが、ストレスにさらされ続けるとストレス物質のコルチゾールが増える。これがシナプスにあるセロトニンなどの不足を引き起こし、うつ病を引き起こすのでは、と考えられている。

この発見が新しい治療薬に結びついている。薬物治療の中心の抗うつ薬ではSSRI、SNRIが登場した。SSRIは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」で、SNRIは「選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」の英語の頭文字の略。ともにシナプスにセロトニンやノルアドレナリンが不足しないようにする薬である。

SSRIは効果が早く表れるわりに副作用が少なく、SNRIはSSRIより効果が高いだけでなく、副作用も少ない点が注目されている。一方で、うつに効きすぎて躁状態を引き起こすことが指摘されてもいる。薬の服用は主治医と充分に話し合い、効果的に使うべきである。

 

食生活のワンポイント

うつ病予防には精神を安定させるセロトニンを減少させないようにするのが不可欠。そのセロトニンの元になっているのが必須アミノ酸のひとつの「トリプトファン」である。トリプトファンは体内で作ることができないので、食品から摂る以外に方法はない。いうまでもなく、よりトリプトファンを摂取するには、トリプトファンの多く含まれている食材をより多く食事に取り入れることだ。

●トリプトファンの多く含まれる食材

バナナ、牛乳、チーズ、卵黄、ピーナツ、アーモンド、大豆、豆腐、納豆、湯葉、マグロ、カツオ、ゴマ、海苔など。

ただし、トリプトファンのみでセロトニンを作っているのではなく、ビタミンB6、B12、ナイアシン、マグネシウムなどと一緒に脳内で作っている。つまり、バランスのよい食生活が重要だ。

そのようななかで、「1日3食の中で必ず豆腐を食べる」「朝食に必ず海苔を食べる」「朝食に必ずバナナを食べる」といった“こだわり”を持つと、セロトニンを減少させず、うつ病予防に結びつくと思われる。