情報統制が利かなくなり、真実が明るみに

そうした正直さを国民と分かち合うことができないリーダーが絶対的権力を持ったらどうなるか。何か問題が生じたときには封殺しようとする。実際、中国ではすさまじい検閲と情報統制が行われていて、賃上げストのローカルニュースが流れただけでテレビ画面がパチンと消えてしまう。

しかしスマホで決済するEコマースなどネット利用が高度に発達した中国社会で、政府に都合の悪い情報だけをこの先もシャットダウンできるのかといえば、やはり長続きはしないだろう。それならばいずれ情報統制が利かなくなって不都合な真実が明らかになり、習体制や共産党の一党支配が揺らぐかといえば、それほど単純でもなさそうだ。

たとえば民主化を求めて天安門広場に集結したデモ隊が武力弾圧を受けて多数の死傷者を出した1989年の天安門事件。これは中国ではなかったことになっている。では天安門事件を経験した中国人は今、何を考えているのか。政府のやり方に満足している人はいない。心の奥底では民主化を望んでいるかもしれない。だが今の中国政府に逆らって民主化要求運動に加わっても、圧倒的な軍事力に押し潰されるのが関の山。それならば下手に反政府的な動きが広がって経済が混乱するよりも、「このまま経済発展を維持してくれればそれでいい」。実利的で自己中心的な中国人はこう考える。

つまり若い世代も含めて、怒りを封印して自己正当化する術を覚えてしまったのだ。民主化運動は完全に下火。今は政府に逆らわないで、自分の得になることだけをやる。いざとなったらカナダかオーストラリア辺りに1億円ぐらい持って脱出すればいい。中国政府は変わらない。だったら自分が選んだ政府のところへ行けばいい。だからさっさと蓄財しようという発想なのだ。それでも資金が海外に持ち出しにくくなったのでビットコインなどに殺到し、海外渡航したあとにこれを引き出せばいい、と怪しげなやり方に狂奔している。

確かに貧しい人々はまだ大勢いる。それでも10年前に比べれば暮らし向きはよくなっているわけで、経済的理由で暴動が起きるとしてもきわめて局所的だ。一方で深刻な大気汚染や水質汚染などの環境汚染が傷口になる可能性もあるが、中国政府が性急でかなり無理のある環境対策を次々と打ち出したおかげで現状は沈静化しつつある。

中国が永遠に一党独裁の単一国家を維持することはできない。6つか7つに分裂したうえで連邦制を模索するのが次のステップだと私は思っている。ただし、そのシナリオが見えてくるのは、「強固」な現体制が10年くらい続いた後のことだろう。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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