自動車業界に年収1000万円超の企業はない

もっとも、親会社と連結子会社の賃金格差は、日産ばかりではない。トヨタグループでは、連結子会社の日野自動車が上場企業としてランキングされている。トヨタの852万円に対し、日野は653万円(34位)。平均年齢は日野が2歳以上若いため、単純に比較はできないが、業績好調の日野にしても親会社との間には200万円弱の差が生じている。

一方、親子の差が比較的小さいのはホンダだ。海外の現地生産を強化しており、国内での委託生産は子会社の八千代工業の四日市工場のみ。平均年収を比べると、ホンダが776万円(7位)に対し、八千代は686万円(19位)。その差は90万円で、八千代の平均年齢がホンダより2歳以上若いことを考慮すると、それほど大きな差ではない。ホンダの平均年収は3.2万円の微増だが、トヨタグループの部品メーカーであるデンソー827万円(4位)や豊田自動織機790万円(6位)よりも低い。ホンダは完成車メーカーとしてはトヨタに次ぐ国内2位の売り上げ規模をもつ。給与はもう少し引き上げたいところだ。

このほか、完成車メーカーでは、国内8位でトラック輸出が好調のいすゞ自動車が762万円で8位、国内7位の三菱自動車工業は718万で14位だった。三菱自は燃費データの不正問題の影響から昨年度の決算は赤字だったが、大幅な賃金カットを行わなかった。年収は前年より1.3万円減にとどまっている。

国内6位のSUBARUは674万円で24位、国内5位のスズキは642万円で37位だった。2社とも過去最高の収益で年収は前年に比べて17万円以上アップしたが、社員の平均年齢が比較的若いこともあり、ランキングの順位は高くない。一方、業界4位のマツダは684万円で20位だった。

平均年収ランキングで1位だったのは、いすゞ系部品メーカー3社が経営統合して、2013年に発足したIJTテクノロジーHDで996万円だった。ただし平均年齢は49.6歳、従業員数は25人で、経営統合した3社の幹部が在籍する持ち株会社である。

つまり他業種よりも比較的好業績の自動車・輸送用機器でも、1000万円の大台に乗っている企業はひとつもないのだ。安倍晋三首相は「賃上げは、もはや企業に対する社会的要請だ」と強調し、来春闘でも「3%の賃上げ」を要請している。首相が事実上の賃上げ要請をするのは5年連続のことだが、従業員の給与は伸び悩んでいる。

企業が給与引き上げや設備投資を控え、内部留保を増やすのは、少子高齢化が進む国内での既存事業に不安を持ち続けているためだ。企業に「賃上げ」を要請するだけでなく、少しでも不安が解消するように、日本の将来像のプランを、より明確に示す必要があるだろう。