しばらくは「パワートレイン多様化」の時代が続く

【藤本】三菱のアイミーヴも日産のリーフも頑張っていますが、バッテリー劣化問題など、解決すべき問題は山積しています。それはアメリカのテスラも同様でしょう。また、ユーザーとして私がたとえば五島列島に行ってEVを運転してみても、航続距離、充電時間など、克服すべきフラストレーションはまだかなりあります。結局、今の自動車のパワートレイン(駆動)技術は、ガソリン車などの内燃機関、HV、EV、燃料電池車(FCV)などいずれも一長一短があり、つまりどれにも欠点があります。したがって、しばらくは「パワートレイン多様化」の時代が続き、どれか一つの方式の独り勝ちにはならないでしょう。

例えばEVに使う電池は最先端のものでもエネルギー密度が低すぎ、コストが高すぎ、充電時間は長すぎます。徐々に改善していますが、特に電池はさらに画期的な新技術が必要です。将来のいずれかの時点で、例えばエネルギー密度が今の数倍になるような革命的な新型電池の誕生があるかどうか。いずれにせよ、ドイツのアウトバーンを長時間、充電なしで高速で走れるようなEVはすぐにはつくれないでしょう。つくるとなると大量の電池を積んで、とても重たい車になってしまうし、コストも高くなってしまう。例えば米国のテスラは好調ですが、今の主力モデルの価格は1000万円を超え、重さも2トンを超えます。

電池のコストの相当部分が変動費であることも忘れてはなりません。つまり大量生産しても劇的にコストが下がるとは限らない。資源制約の状況によってはむしろ高くなってしまうこともありうる。また、将来、無線充電インフラの技術が確立するとしても、それで全国の道路網を埋め尽くすのには長い時間がかかるでしょう。要するに、EVには確かに未来があるが、そう簡単ではないということです。EVの長所だけを羅列して議論していれば読み違えます。

東京大学大学院の藤本隆宏教授(左)と安井孝之氏(右)

【安井】それでは一つの駆動技術に当面は収斂しないとなると自動車メーカーは大変ですね。

【藤本】21世紀前半は用途によってさまざまなテクノロジーが棲み分け、また共存する「エンジンミックス多様化」の時代が続くとみています。そして、こうした「パワートレイン・テクノロジーの多様化」が次世代車の「アーキテクチャ(設計思想)の多様化」をもたらし、その結果、主にモジュラー・アーキテクチャ寄りの領域にスタートアップ企業が参入することにより、新規参入企業も既存企業も含めてある程度は「自動車企業の多様化」が進むでしょう。テスラに限らず新顔の企業が活躍するかもしれません。つまり、既存企業が強い次世代車のアーキテクチャと新興企業が強いアーキテクチャとが併存するでしょう。既存企業が対応できない破壊的技術で新規参入者が新マーケットから侵入し、既存企業は一方的に衰退する、というビジネス・ジャーナリズムが好むセンセーショナルなストーリーは単純には成立しにくいと考えています。