一流の経営者は、仕事以外の時間をどう過ごしているのか。雑誌「プレジデント」(2017年5月15日号)の特集「一流の人の1週間」から、経営者3人の「オフの過ごし方」をご紹介します。第2回は、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長です。佐藤社長は「会議のアイデアは、週末の2時間の半身浴で練る」といいます――。(全3回)

なぜ村上春樹、浅田次郎からリンダ・グラットンまで読むのか

週末はどちらか1日はお客さまとゴルフをして、あとは本や映画、音楽に触れることが多いですね。私が住んでいる地域は、いい喫茶店がいくつかあります。街を歩く人たちもおしゃれで、珍しい犬を連れていたりする。そうした姿を眺めつつ本を読む時間が楽しい。

みずほフィナンシャルグループ 社長●佐藤康博氏

私は村上春樹の大ファンです。新刊『騎士団長殺し』も、さっそく読みました。春樹文学の流れを正統にくんでいる作品という印象でした。文芸では浅田次郎も好きです。じつは私は大学に入りたてのころ、ショートショートに近い文章を書いて身を立てようとも考えた時期がありました。浅田次郎の短編は勉強になりますよ。たとえば『勇気凜凜ルリの色』はウィットに富んでいてすばらしい。

他に人文科学系や、専門的な金融や経済の本も読みます。最近ではユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』、少し前ならリンダ・グラットンの『ライフ・シフト』が面白かったですね。

本を読んで洞察力を身につけるのは重要なことです。『ライフ・シフト』にもありましたが、これからは人生100年時代です。1つの会社に勤めて人生が終わりになるわけではないので、その後を見据えて人間力、あるいは生きていく力を自分で磨いていく必要があります。そのベースになるのは、やはり自分自身の人間力だと思います。

「フォーチュン500」に登場するようなグローバル企業のCEOと会って議論する機会があります。まず求められるのは、世界はどのような方向に向かっているのかという視点。そうした大枠を自分の言葉で説明できないと議論は始まりません。自分なりの世界観を持つには、歴史や文化など幅広く勉強して人間力を磨く必要があるのです。

いま、みずほでは次世代経営リーダーの育成に力を入れています。選ばれた人たちには6カ月間、金融とまったく関係のない研修も受けてもらっています。たとえば国内の大学で人文科学の授業を受けたり、海外のトップビジネススクールの教授を招き、人間としてのあり方を突き詰める1週間の特別講義を受けてもらう。リーダーになるなら専門的知識以外の人間的魅力や胆力、決断力が欠かせないからです。

私自身も、絶えず人間力を磨く必要性を感じています。本や芸術に触れることはそれ自体楽しいものですが、結果的に自分を磨くことにつながればなおいいですよね。

オンとオフの区別そのものは、あまり意識していませんが、お風呂の時間を有効活用しています。浴室にメモを持ちこんで、半身浴をしながら自分のアイデアをどんどん書き込みます。月曜日にそのアイデアを部下に指示する際に、一緒にメモを渡しますが、インクがにじんでしまったり、それが乾いてしわくちゃになることもあるので、部下は困っているかもしれません(笑)。大きな構想を練るのに、週末のお風呂は絶好の場所です。まずリラックスできて、いいアイデアが出やすい。また平日に1~2時間、物事を集中して考える時間を取ることは困難ですが、週末なら誰にも邪魔されずに考えられます。