どんなエコロジーより自分の心をきれいにしてくれる珠玉の一本

次は心が温まって泣ける映画をあげましょう。『初恋のきた道』は、北京五輪で開会式・閉会式の演出を務めたチャン・イーモウ監督が、コンピュータ・グラフィック(CG)ボケする前につくった作品(笑)。

中国の町から村へと赴任してきた教師に、18歳の少女が恋をするわけ。でも教師は町に帰ってしまい、少女は村と町をつなぐ一本道でひたすら彼の姿を待つ……この少女を演じたチャン・ツィイーが本当に可愛い!

今の日本では見られなくなった繊細な乙女心が、なんとも切なくて哀れ。

自分はこういう一途な女性とは遭遇しなかったし、好きな少女に会いたくても会えない男性教師の気持ちになったこともない。そんな体験をしていたら、耐えきれなくて自殺しちゃうんじゃないかな。

多分、現実にこういう2人が結婚しても、思いが強すぎてうまくいくわけないんだよ。だけど少女が恋した瞬間の気持ちを想像すると、無性に心が洗われる。なんで一本の映画が、こんなにも俺の心を「乱泣」させるのか不思議なぐらいだよ。これもエコロジー的浄化作用作品。『運動靴と赤い金魚』も、汚れた心を解毒してくれるイラン映画です。

どうしてこんなにいい映画ができるのか、ただ驚いてしまう。兄貴が妹の靴をなくしてしまうけど、貧しくて新しい靴を買えないものだから、仕方なく2人でひとつの靴をはいて学校に通っている。それが原因でケンカが絶えないところに、小学校のマラソン大会が行われる。その3等賞が運動靴!

映画の序盤「金魚と池」がラストの伏線。妹の靴を手に入れるために、お兄ちゃんが一生懸命走るという設定も泣かせる。なんてったって3着じゃないとダメなんだから。今の日本だと靴が買えないほどの貧しさはなかなかないし、妹のために何かをしようとする兄妹愛という意味でも史上希有(けう)な映画だね。

でも1950年代につくられた今村昌平監督の『にあんちゃん』では、そうした兄妹愛を見ることができるよ。

九州の炭鉱で働いていた父親が、4人の子供を残して死んじゃう。やがて廃鉱になって一家は散り散りになり、悲惨な生活を送らざるをえない。しかし次第に兄弟姉妹の絆は強くなっていく、その様子を末妹の目線から描いた話だ。

話としては全体的にものすごく悲しい作品ではないけれど、兄弟姉妹のお互いを思う気持ちにはホロリとさせられる。巨匠・今村昌平がつくったとは思えない(笑)、異端の作品なんです。
家族というテーマでは、『東京物語』もいい作品だよね。

尾道から上京してきた老夫婦が、成人した子供たちの家を訪ねると、みんな自分の生活に手一杯でどうにも心が通わない。そこで思いやりを見せるのが、原節子が演じた、戦死した次男の未亡人だけなんだよ。

とても現実的な内容で、親孝行や家族の難しさについて考えさせられる、普遍的なテーマを扱った作品といえる。田舎に戻って泰然と過ごす笠智衆の姿に老いの人生と哀感がある。

(構成=鈴木 工 撮影=若杉憲司)