増え続ける熟年離婚。セカンドライフを左右するのは「離婚のコスト」をめぐる「夫と妻の知恵比べ」次第だ。

男性の離婚は清算的な意味合いが強く不利

長年連れ添った夫婦が「熟年離婚」することは珍しい時代ではなくなった。厚生労働省人口動態統計によれば、同居期間が20年以上の離婚件数は1985年には2万434組だったものが、2015年には3万8644組。つまり、30年前に比べると熟年離婚は約2倍近く増えている。

(PIXTA=写真)

それも、これまでのケースは「“濡れ落ち葉”になった夫が、妻から離婚を突きつけられる」というものがほとんど。だが、ここにきて、妻に三行半を突きつける夫が増えていると離婚カウンセラーの岡野あつこ氏は話す。

「5~6年前ぐらいから『夫から離婚を切り出された』という女性が相談に来るようになりました。これまでは浮気をしている夫が妻と別れてほかの女性と暮らしたい、というケースがほとんどでしたが、最近は、妻の性格や生活態度に我慢できない、定年後、2人きりになるのは耐えられないと離婚を迫る夫が増えています」

離婚して、「楽しく、充実した第2の人生をスタートさせるぞ」と意気込みたくなる気持ちはわかるが、ままにならないのが現実だ。

「男性にとっての離婚は、絶対的に不利なもので、清算的な意味合いが強いものとなっています」

そう語るのは男性の離婚・家族問題の専門家で行政書士の吉田重信氏だ。

「これまでの婚姻生活で築いた資産は、分与財産として計上したうえで、按分した分を相手方に渡さなければならないのが原則です。男性は基本的に離婚によって得るものはほとんどありません。唯一、手に入る保証があるのは独身時代の自由くらいのものでしょう」

離婚は、いったんゼロに戻す作業だけに、精神的にも物質的、経済的な面でも、何かを喪失することは避けられない。特に熟年離婚の年齢になってから、多くを喪失するのは苦しいことに違いない。

「離婚でトクだと思えるのは、まずムダなエネルギーを使わずに、こじらせないで別れること。そのために必要なのは心の整理が9割、法律が1割です」と話すのは、自身も3度の離婚を経験した弁護士の原口未緒氏だ。

「心の整理とは、離婚後の自分の幸せな人生をイメージしたうえで離婚の条件を決めていくこと。財産分与や慰謝料などの条件でモメて泥沼化する人は、恨みや憎しみの気持ちが強く、それを相手にぶつけるため、離婚後の自分にとって何を優先すれば理想的なのかを考えられないケースがほとんどです」