――昔から福岡市には産業がないと言われる中で、大規模な産業開発に向かわず、21世紀型のコンパクトな都市を目指してきたのはなぜか。

【倉富】コンパクトシティを目指さざるをえなかったというのが実情です。というのも福岡市には決定的な弱点があった。近くに大きな河川がなく、常に水不足に悩まされてきました。水がないから工場が来ない。製造業も来ない。みんなお隣の北九州市に行きました。北九州市の人口が100万人を超える頃、福岡市は40万~50万人。九州で大都市と言えばずっと北九州市でした。

ところが製造業に向いていなかったことがいまに繋がりました。工場がないから公害がなく、その対策にお金を使わなくて済みました。海も山も自然が守られ、世界屈指の節水型の都市が出来上がった。そのうちに時代が製造業中心から環境優先へと変わり、福岡が注目されるようになったわけです。

面積8600平方メートル、天神の大規模再開発

――今後、福岡市がさらにランキング上位を目指すには、何が必要なのか。

【倉富】第1の課題は、古くなったビルの建て替えです。ここ(6階の応接室)から窓の外を眺めてみてください。老朽化したビルや施設が目立つでしょう。それらを刷新する必要があります。しかし単なる建て替えではなく、これからの福岡市の成長エンジンともなる開発をしていこうというのが、市が主導している「天神ビッグバン」です。これは福岡を「スタートアップシティ」にすることを経済戦略の要とする高島市長が、特に力を入れているプロジェクト。天神一帯に多種多様な人や文化が集まり、出会う場をつくって、新しい事業や文化が次々と生まれる環境を整えていこうとしているんです。当社もその一翼を担おうと、15年に起業家を対象にしたコワーキングスペース「天神COLOR」を開設しました。今後はこの福岡ビルと「天神コア」「天神ビブレ」の建て替えを10年越しで進める方針で、これが実現すれば、敷地面積8600平方メートルという大規模な再開発となります。

その具体的なイメージはいま詰めていますが、低層階には賑やかな店舗施設が入ります。前の歩道も整備して、歩いて楽しい街にしたい。そしてビルの上層階には文化的な施設と最高の設備を整えたオフィススペースをつくります。さらにSクラスのホテルを加えることも検討しているところです。

――アジアの玄関口として重要な機能を担う福岡市が、今後アジアのリーダー都市になるための課題は何か?

【倉富】なんといってもアジアと福岡市、そして国内の主要都市とを結ぶネットワークの強化です。その1つとして期待しているのが、福岡空港の滑走路の増設です。これを機にアジア各国からの発着便が増えることを期待しています。また、それに伴う空港の運営民間委託には、当社も参画したいと、地元事業者で協力体制を敷いて、入札に臨んでいるところです。

もう1つは海の交通ですね。福岡はクルーズ船の寄港回数で国内第1位ですが、さらに福岡からアジアの主要都市を周遊するクルージング船を出すようなことも考えていきたい。

他方で、福岡から九州各地に移動する交通ネットワークの強化が急務です。九州新幹線が開通したことに加え、私たちも再来年から新型観光列車を走らせる計画ですが、鉄道もバスもさらに増強して、福岡からほかの町に行く交通ネットワークと楽しみをつくっていく必要があります。

▼共に歩んできた福岡市と西鉄グループ100年史
(1908)前身の九州電気軌道が設立
(1936)百貨店・岩田屋が開業。天神の街の礎となった

(1942)地元私鉄5社が合併し、西日本鉄道となる
(1951)プロ野球・西鉄ライオンズ球団の運営開始(72年に譲渡)
(1961)西鉄名店街開業

(1968)バス保有台数3,000台突破
(1969)西鉄グランドホテル開業
(1980)福岡市の人口(108万人)が北九州市(106万人)を超える(国勢調査)
(2006)九州のバス乗り放題券「SUNQパス全九州」発売開始
(2014)西鉄グループ新企業メッセージ「まちに、夢を描こう。」制定

倉富純男(くらとみ・すみお)
西鉄グループ代表。1953年、福岡県うきは市生まれ。78年、青山学院大学法学部卒業後、西日本鉄道入社。都市開発事業畑を歩み、福岡市・天神地区の商業施設の開発、運営に携わる。97年、不動産事業局ビル事業部開発課長。2006年、都市開発事業本部商業レジャー事業部長。11年、取締役常務執行役員経営企画本部長を経て、13年、代表取締役社長就任。
 
(文=大島七々三(ジャーナリスト) 撮影=榊 智朗)
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