道を歩く若い女性がやたら目につく

太陽が照りつける天神を歩いてみたが、たしかに街が小ぶりだ。天神地区は中心部からおよそ半径500メートルの狭い範囲にほぼ収まり、東西南北どちらに向いても、10~15分で端に行き着く。だが密度が恐ろしく高い。西鉄福岡(天神)駅の周囲を地元の老舗百貨店・岩田屋のほか、西鉄が運営する「ソラリアプラザ」や「ソラリアステージ」「天神コア」といった大型の商業施設が固め、さらに三越、パルコ、大丸といった有名百貨店が林立しているかと思えば、脇に入るとアーケードの商店街が活気づいている。また繁華街のど真ん中を通る天神西通りでは、「ZARA」「H&M」など、若者向けファッションブランドが通りを飾り、その間をお洒落な路面店のショーウインドーが埋める。歩く人も若い女性がやたらと目につく。暑さしのぎに地下街に降りてみると、そこにも衣料品店や飲食店がずらりと並んでおり、しかも通りの道幅いっぱいに人が行き交っている。

――天神の街を歩いてみたが、シャッターが閉まっている店が1つもない。なぜ天神は常に若者たちを惹きつけ、活気を増し続けているのか。

【倉富】福岡は大陸から近く、昔から多様な文化を受け入れてきた土地で、人が大らかで開放的。新しいものが入ってきてもノーとは言わず、やってみようじゃないかという雰囲気があります。要は新しもの好きなんですね。そうした風土が街づくりにも生きています。

天神はその狭いエリアの中で、アンテナショップができたり、イベントが開催されたりと、常にどこかで新しいものが生まれている。それが街の鮮度を保っているのだと思います。私たちの「天神コア」ビルなども、テナントの見直しも含めて、一生懸命鮮度を保つ努力をしています。そうやって街全体が躍動しているのです。

それは天神だけでなくお隣の博多も含めてです。天神と博多はよく比較されますが、実際は互いが連携してやっています。全体では手を繋ぎ、街づくりではそれぞれが先頭を競い合う。そうして全体の質を高めているのです。

(左)多くの人で賑わう天神地下街。(右)西鉄の福岡(天神)駅。1日の平均乗降人数は13万人を超える。

西鉄では昨年、天神、博多、ウオーターフロントエリアを周遊するBRT(バス高速輸送システム)構築に向けた取り組みの1つとして、連節バスの運行を開始したが、それも福岡全体の回遊性を高める努力の一環だ。それを始めた倉富代表は13年の代表就任の翌年に、「まちに、夢を描こう。」の企業メッセージを発表。16年からの中期経営計画の中では「福岡のまちの発展をけん引するとともに、グローバルビジネスを拡大し成長する」とのビジョンを掲げている。

その計画どおり、西鉄は天神の開発だけでなく、ベトナムのホーチミン市に大規模な分譲マンションと戸建て住宅の複合事業に乗り出し、インドネシアでの大規模な開発にも参画。また韓国のソウルや釜山にホテルを開業し、20年にはバンコクにも開業予定だ。

――福岡の開発と同時に海外展開に挑む狙いは何か。アジアの街づくりと国内事業とのバランスは?

【倉富】福岡が元気といっても、北部九州だけを相手にしていては経営基盤として弱い。会社をより発展させるために域外展開をしっかりやるということです。その場合、当社から見て大陸はとても近い。海外の街づくりでは福岡で培ってきた、運輸事業を主体とした地域密着型の街づくりの経験を生かし、そこでレベルアップしたものを福岡にフィードバックするという相乗効果を狙っています。そうやって段階的に福岡をアジアの先進都市にしていきたい。

また海外の事業を通じてアジアからのインバウンドを増やすのも課題です。最近は家族旅行で福岡に来る外国人観光客も増え、ここから別の場所に移動する流れも出てきた。その移動にバスを利用する人の割合が高くなっています。九州全域で使えるバス乗り放題(高速バス含む)の「SUNQ(サンキュー)パス」は、海外だけで年間16万枚を販売しています。これは1日約450枚の計算。福岡にインバウンドが増えれば、九州全域に経済効果を及ぼすので、海外事業を通じてアジアと福岡をもっと近づけたいという狙いもあります。

(左)2両のバスを繋げた西鉄の連節バス。利用する外国人観光客も多く見かける。(右)九州全域と、全国主要都市を結ぶ西鉄天神高速バスターミナル。1日の高速バス到着本数は約1500台にも上る。

天神の街では、いたるところにキャリーバッグを引いて歩く外国人観光客の一団を目にし、彼らがバスを利用する光景も頻繁に見かける。「SUNQパス」は、九州全域のバス会社が協力し合って11年前に発売開始。「九州の各バス会社が協力して実現したもの。他の地域では難しいのでは」(倉富社長)と、九州の結束の強さを強調する。