東京都練馬区にある名門校「私立武蔵高等学校中学校」。同校の中学入試には“おみやげ問題”という名物がある。ネジや画びょうなどが配られ、出題文には「持ち帰りなさい」と書かれているのだ。かつてはみかんを配ったこともあったという。なぜこんな「面倒くさい」ことをするのか。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が聞いた――。

※この記事は、おおたとしまさ『名門校「武蔵」で教える東大合格より大事なこと』(集英社新書)より一部を抜粋、再編集したものです。

理科の入試では、その場で「本物」を観察させる

2017年度武蔵中学校入学試験、理科の大問3。受験生には問題用紙だけでなく、小さな封筒が配布される。その中に、2本のネジが入っている。それをよく観察して、問いに答えるのだ。

袋の中に、形の違う2種類のネジが1本ずつ入っています。それぞれのネジについて、違いがわかるように図をかき、その違いを文章で説明しなさい。ただし、文字や印、傷などは考えないことにします。(試験が終わったら、ネジは袋に入れて持ち帰りなさい。)
実際に入試問題として配られたネジ(撮影=おおたとしまさ)

B4のわら半紙の上のほうに3行の問題文が書かれており、それ以外は余白。そこに自由に図を描き、違いを説明する。いきなり見たら面食らうだろう。

もちろん武蔵の受験生たちはこれが武蔵名物の「おみやげ問題」であることを知っている。試験終了後、その“もの”を持ち帰るので「おみやげ問題」と呼ばれている。1922年に実施された第1回入試では3枚の木の葉が配布され、「与えられた3枚の葉をしらべて異って居る諸点をあげなさい」と問うていた。創立以来の伝統なのだ。

毎年必ず「おみやげ問題」が出るとは言い切れないが、ほぼ定番化している。これまでに、マグネットシート、画びょう、キャスター、ファスナーなどが“おみやげ”になっている。梶取弘昌校長が武蔵を受けたときには、みかんが配られ、試験中にそれを食べてしまった受験生もあったという。

というわけで、12歳の小学生になったつもりで、冒頭の問題を実際に解いてみよう。実物の代わりに写真を見てもらうしかないのが申し訳ないのだが。