Q.10年後にニーズが高まる仕事って何ですか?
【辻井】ホワイトカラーの一部はAIに代替されますが、全員が仕事を失うわけではありません。
今後、産業界では横の統合が予想されます。いま大手ECサイトはAIによって、何がどれくらい売れるのかという需要予測を高い精度で行えるようになりました。その予測に基づいて、配達の中継基地まで先に品物を運んだり、早めの発注をかける取り組みも始まっています。この流れが進めば、メーカーが注文前に工場を稼働させるという動きも出てくるでしょう。
需要予測に基づいて複数の業態の連携が進むと、それによって生まれる新しいサービスを発想したり、どの業態と組めば全体が最適化するかと考える総合的な判断能力が問われるようになります。AIは縦型の一業態に限られた情報を活用することに長けていますが、異なる複数の業種の情報を統合して考えるのは、人間のほうが得意です。
ホワイトカラーでも、事業を構想したり、総合的な判断をするポジションは、むしろニーズが高まるはずです。
【三谷】研究職と身体性かつ専門性の高い職業です。医療を例に考えてみましょう。将来、AIとロボットで診断も手術も自動化されて、外科医は仕事を失うかもしれません。しかし、AI自身は新しい病原体や治療法を発見することはできません。AIを育てるには膨大な論文を読みこませる必要がありますが、新しいテーマを見つけ、研究して論文を書くのはまだ、人間の仕事。研究者は逆にいまより増えるでしょう。
また、術前術後は患者さんのケアが必要ですが、対面のコミュニケーションも人間のほうが得意です。診断と手術が機械化されてコストが大きく下がれば、手術の件数が爆発的に増えるので、術前術後のケアを担う看護師はいま以上に人手不足になります。
今後は、AIに学習させるデータを供給する研究者と、対面が必要な職業は引く手あまたになるでしょう。
悪夢の近未来を生きのびる方法があります
Q.人工知能が決してできないスキルは何か?
【辻井】昨年、マイクロソフトの対話学習型AIがヒトラーを礼賛する発言をして、実験が中止に追い込まれました。人間は本能や、長い歴史の中で形づくられてきた多様な価値観を持ち、それに基づいて判断を下します。しかし、AIの価値観は赤ん坊の状態。学習の結果、偏った一つの価値観に基づいて判断を下すこともありえます。
AIは、目的が明確な仕事は得意です。しかし、目的の背景に多様な価値観があるものは難しい。たとえばAIに投資のアドバイスをさせるとします。このとき目的が、利益を最大化することなのか、リスクをヘッジすることなのか、はたまた社会に貢献をすることなのか。それによって適切なアドバイスは変わってきますが、AIは価値観をすりあわせて目標を設定することができません。そこは人間の役割であり、今後もそれは変わらないでしょう。