Q.人工知能の開発ってどこまで進んでいるんですか?
【辻井】AIの特徴は、自律系、つまり自分で判断し、動く点です。これまでの機械は自律性が高くありませんでした。たとえば拳銃は勝手に標的を判断しないし、自分から発射しません。トリガーを引くのは、あくまでも人間です。だからこそ人間は自分が道具を使っている意識を持てました。しかし、自律系であるAIは人間のコントロールを離れる部分が出てきます。人々がシンギュラリティ(技術的特異点)に一抹の不安を抱くのも、人間のコントロールが利かなくなるおそれが根本にあるからでしょう。
AIが、人間の限界を超える大量のデータをもとに判断を下せる点も見逃せません。医療なら、AIが過去の治療履歴をもとに、人間の医者が見逃す病気を見つけて適切な薬を処方するようになる。しかし、ここでまた自律系の問題が浮上します。AIは人間の考える原理で治療法を導き出すわけではありません。いわば、外から理解できない「閉じた自律系」といえます。そのため患者は治療法をすすめられた理由がわからず、不安を覚えるのです。
近年、AIは機械学習から深層学習(ディープラーニング)に進み、ブラックボックス性が一層強くなりました。このままでは社会に受け入れられないおそれもあります。そこでいま世界の研究者は、「開いた自律系」の研究に力を入れています。具体的には、AIの判断の道筋を透明化したり、言葉で説明する研究が進んでいます。AIが開かれた自律系になれば、多くの人がAIに不安よりも信頼感を抱けるようになるのではないでしょうか。
10年後増える仕事、消えてなくなる仕事
Q.ズバリ、10年後になくなる仕事は何ですか?
【辻井】AIによって、情報革命はいよいよ最終段階に入ってきました。情報革命の第一段階は、データが計算機の中に入ったことでした。計算機の中のデータは、グラフや表にして見せる加工が容易にできます。これによって人間の情報処理能力が上がり、ホワイトカラーの生産性は高まりました。
次の段階がAIによる分析です。それまで計算機に入力されたデータを分析するのは人間の役割でしたが、その仕事をAIが担うようになる。10年後には、ホワイトカラーの仕事の一部がAIに代替されるようになるでしょう。
【三谷】AIに代替されやすいのは、ルールがはっきりしている仕事です。将棋や囲碁ではすでにコンピュータがプロ棋士を上回るようになりましたが、あれはルールが定まっているから。複雑なルールでも、それが明確ならコンピュータは学習・情報処理能力を駆使して、人間を凌駕するのです。
一般的な仕事でいえば、経理や会計がそうです。経理や会計の仕事は法律や会計基準といったルールに従うことが重視されます。個性を発揮して勝手な方法でやることは求められていません。ほかにも、ルールが明確な仕事はいずれAIに取って代わられてしまうでしょう。