ブランド拡張の典型例「コーチ」
それでは企業には、どのようなメリットをもたらすでしょうか。まず、自社製品を他社製品と差別化することにより、価格競争に巻き込まれずに高く購入してもらうことができます。
また、製品の仕様変更やモデルチェンジをしやすくなり、派生製品も展開しやすくなります。例えば、ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション」は、94年の発売以来、複数回のモデルチェンジを重ねてきました。製品自体は初代と全く違うものになりましたが、プレイステーションというブランドによって、知名度やイメージは引き継がれています。また、派生製品についても、据え置き型のプレイステーションから、携帯型の「PSP(プレイステーション・ポータブル)」や「PSV(プレイステーション・ヴィータ)」へと展開しました。いずれの場合も、もしブランドがなかったら、一から製品説明が必要になったでしょう。
さらに、ブランドを利用して、異質な分野へとビジネスを広げていくことも可能です。これを「ブランド拡張」と言います。例えば「コーチ(COACH)」はレザーバッグからスタートし、時計やジュエリー、靴など、さまざまなカテゴリーに製品を展開しています。
逆にブランドが機能せず、中身と価格でしか勝負できない状態のことを、マーケティングの世界では「コモディティ化」と呼びます。いわゆるコスパ(コスト・パフォーマンス)競争です。21世紀に入ってから、デジタル化の進展により、製品間の比較が容易になり、消費者のコスパ志向が強まりました。そのため、一時期、多くの企業がコスパ型のマーケティングを採用し、安売り競争に陥りました。その典型がパソコンや液晶テレビです。「ブランドで売る」という視点を失うと、痛手を被ることがよくあります。
ブランドには、コモディティ化を回避する機能があります。企業にとってブランドには、売り上げ・利益・シェアといったマーケティング成果を安定させたり、高めたりする効果があるのです。ブランドは、売れ続けるためのドライバー(駆動力)と言えるでしょう。