また北寄りに発射した場合は、無事に飛翔してもロシアの領空を通過するし、無事でない場合はロシア領内のどこかに落下する危険性がある。そのような事故が起きれば、北朝鮮の技術的な宗主国であるロシアの後ろ盾を失いかねない。結果、8月29日の火星12号発射は極めて限られた「狭い回廊」を飛ばすこと専念したと見られる。

8月29日に打ち上げられたミサイルは、おそらく弾頭を想定した開発中の再突入体を搭載し、その重量も最大ペイロードになるよう設定したものと思われる。その状態で、最も効率的な軌道で発射したときの飛行状態や射程をモニターし、加えて弾頭部の再突入テストも試みたのだろう。

また、青森県津軽郡の航空自衛隊車力分屯地には、アメリカ陸軍が運用する終末高高度防衛ミサイル(THAAD)用のXバンドレーダーが設置されている。その目と鼻の先を横切ることで、外交カードのひとつである火星12号の存在と完成度の高さを誇示し、併せて日米側の防衛体制の情報収集も行ったのだろう。

通常戦力より核戦力の充実を優先

北朝鮮の一連の動きには、アメリカと対峙するなかでいかに自国に有利な形を作るかという意図が見え隠れする。アメリカには、仮に地上戦に突入したとしても勝てる自信がある。いら立ちが沸点に達した北朝鮮が先に38度線を越えれば、むしろ真珠湾と同じ構図で、アメリカ側が戦いの主導権を握れると考えている。片や北朝鮮は、そうはさせまいと通常戦力での戦いを避けるべく、戦略兵器の完成を急ぐ。

9月3日の核実験は、まさにそうしたシナリオの1ページといえる。推定される核出力は、防衛省の当初予想によれば70ktという微妙な数字で、もし爆縮型の核分裂爆弾であれば理論上の最大値には達しているが、サイズ的には乗用車ほどにもなり、とても弾道ミサイルに搭載できるような代物ではない(9月6日、包括的核実験禁止条約機関は今回の核実験による地震のマグニチュードを当初発表より上方修正。これを受けて防衛省も、爆発規模の推定値を160ktに引き上げた)。

ところが、核実験に先立って研究施設を訪れた金正恩の前には、説明用とおぼしき核弾頭の模型が置かれていた。その模型は、構造的には現代の核弾頭で広く用いられるブースト型原爆(核分裂を起爆に用い、それによって発生した小規模な核融合反応によって核分裂を促進させる)を示しており、それが本当に完成の域に達していたとすれば、弾道ミサイルに搭載できる可能性は一気に高まる。原料となるプルトニウムの節約を図りつつ小型化とのバランスを試みたとすると、核出力の規模にも説得力がある。これに弾頭の再突入技術が伴えば、アメリカを脅すための兵器が完成することになる。