キヤノンは短期間で投資の成果を出した
他の企業の投資CFの赤字額(出金超過額)に注目してみよう。赤字額が多ければ積極的な投資活動を実行したということだ。16年度決算において、投資CFの赤字額が営業CFの黒字額を上回っている主な企業は、日産自動車やパナソニック、キヤノン、JT、JR東海、ドンキホーテHDなどである。
キヤノンを例にとろう。同社は16年度に東芝の医療機器子会社を買収したこともあって、投資CFの赤字幅は、営業CFでの入金額をおよそ3400億円上回ったが、その効果はすでにはっきりとあらわれている。
キヤノンの17年1月~6月の売上高は1兆9652億円。前年の同じ期間で比較すると、売上高は18.5%増の1兆6574億円となっている。これほど短期間で投資活動の成果が示されることは珍しいといっていいだろう。
2社とも16年度に限られるが、三菱重工業とNECは、投資CFが入金超を示す黒字だった。攻めより守り。子会社や有形固定資産、金融資産の売却などを進めたことを意味する。同じように、投資CFの黒字を2期続けたことがあったパナソニックは、16年度、投資CFの赤字額が営業CFの黒字を上回った。米国の業務用冷蔵庫企業の買収などを手がけたためだが、守りから攻めの「業績拡大路線」にかじを切ったとみていいだろう。
JR東海の投資CFの赤字額は、ソフトバンクグループには及ばないものの2兆円に迫る。借入金に依存する形だが、リニア新幹線の建設に本格的に着工したということ。投資効果がすぐに表れたキヤノンとは異なり、長期的な視野に立ち、成長の実現を見守るべきだろう。
投資CFの赤字額が営業CFの黒字額を上回った日産自動車とは対照的に、トヨタ自動車とホンダの投資CFの出金は、営業CFで獲得したキャッシュの範囲内である。ほとんどの企業に見られるパターンだが、「入金>出金」で積み上げてきたキャッシュの規模を確認したい(CF計算書に「現金及び現金同等物の期末残高」として表示)。企業がいつでも投資に投じることができる資金の目安になる。