原題は「Despicable Me(卑劣な私)」

予告編やプロモーションを通じた作品の見え方コントロール、当世風に言うなら「印象操作」は映画業界の常套手段です。ゾンビ映画をヒーローアクションに勘違いさせることも、サスペンス映画をラブストーリーに偽装することも、扱いの難しいセクシャルなテーマを巧みに伏せることもできます。それらに比べれば、今作のミニオンフィーチャーなど、大した話ではないでしょう。結果的に観客が作品に満足できれば、なにも問題はないのですから。「牛肉をオーダーして馬肉が運ばれてきても、ちゃんとおいしければほとんどの客は怒らないだろう」という理屈で回っているのが、日本の映画業界です。

そもそも「怪盗グルー」は日本でつけられたオリジナルの邦題です。原題は『Despicable Me 3』、つまり「Despicable Me(卑劣な私)」シリーズの第3作。「ミニオン」の文字も「大脱走」の文字も、一切入っていません。ちなみに「卑劣な私」とは、主人公グルーのことです。

逆に、作品の本質を正直に伝えることで、客層を狭めてしまうことすらあります。良い例が、今年7月14日に公開された『カーズ/クロスロード』ではないでしょうか。同作は、海外CGアニメシリーズの3作目で公開規模は345館。海外CGアニメシリーズの4作目で公開規模359館の『怪盗グルーのミニオン大脱走』とは近いスペックです。公開日は1週間違い。いずれも「夏休みファミリー映画」という位置付けでした。

『カーズ/クロスロード』の苦い失敗

ところが、初日2日間の興収は『カーズ』が3億2000万円、『怪盗グルー』が興収5億9900万円。大きく水をあけられてしまいました。

『カーズ/クロスロード』の宣伝は、『怪盗グルーのミニオン大脱走』と違って実に「正直」でした。台頭する有望な新人を前に、加齢で実力に陰りが見えた元チャンピオンが悩む――という深刻で重い内容を、正確・誠実に伝えていたからです。日本版予告編にもそれが現れていました。

『カーズ/クロスロード』日本版予告編
https://www.youtube.com/watch?v=uuLDkDWXe1M

ただ、このようなテーマにもっとも反応するのは、それこそアラフォー以上のオヤジ。子どもたちや若者層は、そこまで心をつかまれません。

もちろん『カーズ/クロスロード』本編にも、コメディタッチのくだりやギャグはちゃんとあります。そのシーンだけを巧みにつなげば、そこまで深刻でない、愉快で楽しげな予告編を作ることもできたでしょう。それによって「愉快で楽しげな映画」を観たい子どもたちや、多幸感を求める若者客の一部を引き込めた可能性もあります。