4. 格差拡大

先日、厚労省が所得格差を表す指標のジニ係数を発表した。1に近いほど貧富の差があり、13年は0.5704。日本は年々数値が上昇しており、過去最大だった。

格差に言及した経済学者トマ・ピケティによる著書『21世紀の資本』(みすず書房)は記憶に新しいだろう。

ピケティは資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回ると、資産の分布が偏るようになり、現在の傾向が続けば、世界的に格差が拡大していくと指摘した。

またアメリカで労働長官を務めた経験のある経済学者ロバート・B・ライシュは、政府が大企業やウォール街の望むことに注力していった結果、格差が拡大したのだと批判している。

「富裕層は少数で、富裕層以外の一般人は大多数いるため、格差拡大の批判は広く支持を得ます。そして経済的平等を前提に、格差は是正すべきだという結論に収束していくのですが、格差はどうして悪いのかと聞かれると、誰もはっきり答えられません」

「ピケティもライシュも、格差を全部なくして、完全に一律な社会をつくろうとは主張していないし、それを誰も望んでいない。どんな格差はダメで、どこまでの格差なら許容できるかをわれわれは考えていくべきでしょう」

ここでヒントになるのが、「平等主義」に対比する概念として、哲学者ハリー・フランクファートが唱えた「十分主義」だ。道徳的に重要なのは、所得が多いか少ないかではなく、お金を十分持っていない人には与えて、各人が生活できるお金を十分に持つことだと説いた。目を向けなければいけないのは、格差是正よりも、貧困の救済なのである。

岡本裕一朗
玉川大学文学部教授。西洋近現代思想を専門にしながら領域横断的な研究にも取り組む。近著に『いま世界の哲学者が考えていること』がある。
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