しかしスナックは基本、ママひとりでも営業でき(場合によってはセルフサービス状態)、月の売り上げ50万円に対し、家賃10万円(売り上げに対し20%)としても、人件費がかからなければ利益率は50%前後となる。概算であれ、この利益率は脅威的だ(ただし、スナックの客層は地縁者の常連か、なじみの客が多く、新規客は広告を使っても期待できないという欠点もある)。ようはスナックは、売上高はそこまでなくとも、ほそぼそとであれば息の長い業態だといえる。

スナックで「社会貢献」

そして、もう一つ注目すべきなのは、スナックの存在が地域の人々のつながりに貢献しているという点だ。スナックが近年企業経営で注目される、自らの事業活動を通じて社会の抱える課題を解決する「社会貢献的経営」そのものである――と言うといい過ぎだろうか。

亜美ママが店をオープンした頃といえば、2008年のリーマンショックを機に日本経済が低迷していた時期でもある。当時、大森周辺の飲食店も次々に閉店に追い込まれた。

「だからこそ、お客さまが一人で来ても楽しめるような店を作りたかったかなぁ。地元のためになることを、何かやりたかったという思いがあった」

今では「スナックは、酒を出せば商売が成り立つものではない。客と店の人のやりとりというより『人』対『人』の部分が大きい」と痛感し、いかに「お客さまにとって居心地のよい空間」を作れるかが重要なのだと悟る。

人はなぜスナックに行くのか

客側も、なぜスナックに行くのか事前に何軒かの店で尋ねると、単に飲むだけではない。「愚痴が言える」「社交場」「安心できる居場所」だからという声が多かった。地方ともなると地域交流の場も兼ねているだろう。スナックは、ただの夜の飲み屋じゃない。道端の雑草のような扱いを受けても、“社会的企業”と同じくらいの価値を持っているといえる。

だからこそ人を惹きつけてやまない――。

グラス片手にそんなことを考えていると、店のドアが開いて3人組の年配男性客が入ってきた。どこかで飲んできた帰りだろう。陽気な調子でカウンターの椅子に腰かけ、ママと会話を始めた。立て続けに、今度は女性客も来店。無粋な話はこれまでだ。

あれよあれよという間にカウンターはいっぱいとなり、カラオケ大会が始まった。いま店にあるのは、かつて中学生だった頃のママがスナックに魅了された、あの空間そのものではなかろうか。

安部次郎(あべ・じろう)
1978年生まれ。週刊誌記者。主に経済の取材を得意とする。玉袋筋太郎番として実践的にスナックを学んだほか、全国各地での事件取材時に地ならしで数々のスナックを訪れるなど豊かな経験を持つ。
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