先ほど申し上げたように、イベントの担当者には、予算に見合う「成果」を欲しがる一方で、「失敗」は絶対に避けたい、という心理が強く働く。それは「減点主義」をとる企業に顕著で、斬新な企画よりも定番の企画、PRと親和性の高いマイナータレントよりワイドショーや情報バラエティ常連のメジャータレント、という風に安全なほうへと流れていく。

それを踏まえると、『ハクソー・リッジ』のPRが、なぜダチョウ倶楽部と野呂さんだったのかの裏事情が見えてくる。

(上)映画ランドNEWSより(下)ニュースウォーカーより

実はダチョウ倶楽部のみなさんは、近年、この手のPRイベントに引っ張りだことなっている。「ヤー」や「アツアツおでん」などのギャグで場が盛り上がることや、ベテランなのにサービス精神旺盛でマスコミ受けもいいということもあるが、その最大の理由は揺るぎない「安定感」である。

先ほども触れたが、ダチョウ倶楽部は知名度が高く、定番ギャグも記事で扱いやすい。このため彼らが出演するイベントは、テレビはもちろん、スポーツ紙や、ネットニュースなど多種多様な露出が獲得できているのだ。

この数カ月だけでも、4月6日に行われた横浜DeNAベイスターズ対読売ジャイアンツ戦での始球式や、3月に行われたレゴブロックのPRイベントなど、さまざまな出演イベントがニュースになっている。

PR業界の安心ブランド「ダチョウ倶楽部」

また、映画イベントでもかなりの「実績」を誇っている。昨年3月には映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のPRイベントに出演し、上島さんと寺門さんがキスしたことを多くのメディアが取り上げている。さらに、同じ太田プロダクション所属の野呂佳代さんとの「バーター」も定番化しつつあり、15年6月の『ヒックとドラゴン2』ブルーレイ&DVD発売記念イベントでは、今回のように「キレ芸」を披露した上島さんと野呂さんが初キスをしたとして、これまた多くのメディアに「露出」した。

つまり、これからPRイベントを主催しようという人間からすれば、ハリウッド映画から地味めなDVD発売イベントまで、きっちり露出を獲得してくれるダチョウ倶楽部は「安心のブランド」ともいうべき存在となっているのだ。

だから、この手のイベントを行う人々は皆こぞってダチョウ倶楽部を招く。なぜそんな「横並び」になってしまうのかというと、担当者や現場の人間の「保険」になっているからだ。

もしダチョウ倶楽部のような有名人を起用せず、メディアの露出も獲得できなかったら、担当者は社内でつるし上げられる。なぜ「実績」のあるタレントを押さえなかったのか叱責される。逆に、ダチョウ倶楽部を起用したPRイベントがスベってしまい、思うようなメディア露出が獲得できなかったとしても、担当者は社内で申し開きが立つ。あれだけほかで「実績」のあるタレントを押さえたにもかかわらず、今回はたまたま結果がでなかったと釈明できるのだ。