同様の問題は、映画のPRイベントだけではない。企業の新製品や新サービスをお披露目するイベントでも、どう考えてもなんの接点もないようなアイドルやタレントが招かれて当たり障りのないトークをして盛り上げる、ということは少なくない。

こうしたイベントに参加した知り合いの記者からも、「タレントを呼ぶお金があるのなら、もっとしっかりした戦略にもとづいたPRを仕掛ければいいのに」なんて苦言もちょいちょい耳にする。

イベントを企画する側をかばうわけではないが、さまざまな「オトナの事情」が複雑に絡み合う中で、このようなスタイルが最終的な妥協点になっている部分もある。というのも、日本で何かしらを「PR」しようとする場合、現場の人間が必ず直面する制約があるからだ。それはだいたい以下の3つに集約される。

【1】「テレビ露出」至上主義
【2】独自路線を嫌う「横並び」信仰
【3】「マスには小難しい話をしてはいけない」という固定観念

では、順を追って【1】から説明しよう。なぜそこまでテレビがありがたがられるかというと、PRイベントに対するわかりやすいKPI(重要業績評価指標)になるからだ。

PRほど効果測定のしにくい仕事はない。例えば、仮に『ハクソー・リッジ』に大ヒットを記録したとして、どんなに来場者アンケートを採ったところで、ダチョウ倶楽部と野呂さんのイベントの効果を数値化することは困難を極める。

かといって、予算をかけて発注している以上、クライアント側の担当者も、PRやイベントを担当する外部業者も「なんとなくいい感じでしたね」では済まない。このため、メディアにどれだけ露出をしたのか、あるいはSNSでどれだけ拡散をしたのかをKPIとする。

つまり、評価されるのは、露出の「質」よりも「数」になるので、当然テレビのプライオリティが高くなる。広告に換算すれば、ほかのメディアよりも群を抜いて高額になるからだ。

情報バラエティ「ながら視聴」層を狙え!

サラリーマンならば、自分の通した予算によって行われたイベントの「成果」は、大きいほうがいいに決まっている。かくしてイベント担当者は「テレビ」を求め、それを「忖度」した現場もテレビ露出を最優先としたイベントを作り上げていく流れができあがるわけだ。

企業や映画のPRイベントが、NHKや民放のニュースで取り上げられることはまずない。結局どこを狙うかというと、わりとユルめの「情報バラエティ番組」がメインとなる。ご存じのように、こういう番組のターゲットは、基本的に昼間に家にいてテレビを“ながら視聴”している主婦やシニア層の方たちになる。そうなると、主婦やシニア層の認知度が高く、安心して見られる鉄板ギャグで「尺」を稼いでくれる有名タレントが引っ張りだこになる。

テレビ露出を獲得するために有名タレントを起用することは理解できるが、あまりにも製品やサービスとかけ離れた人選はいかがなものか――。そうしたツッコミはごもっともだ。だが、それは2番目の制約である「横並び」と関係している。