安倍首相は改憲原案の取りまとめについて、衆参の憲法審査会での与野党の協議に委ねるのではなく、まず自民党で原案を策定し、それを各党に提示するという「自民党主導型」を企図している。これまでと同じ「与野党協議重視型」だと、憲法審査会は小田原評定に終始し、目標の「在任中の改憲」が絵に描いた餅に終わる心配があるからだ。

筋金入りの改憲論者の安倍首相には長年、独自の改憲構想を主張してきた。「要改正項目」として重視するのは、「翻訳調」と批判する現憲法の前文、第9条、3分の2の発議要件を定めた改正手続きの第96条の3点であった。

だが、5月3日の改憲メッセージでは、現憲法第9条への自衛隊明記と教育無償化を唱えた。自民党の憲法改正推進本部は、検討テーマとして、それ以外に、緊急事態条項、参院選の2県合区解消を含む選挙制度を取り上げ、計4項目を対象とする方針である。

「自民党主導型」で押し切ることができるか

自民党主導型とはいえ、憲法審査会での与野党協議、衆参での発議の議決という関門を通り抜けるのが必須条件だから、自民党策定の改憲原案も、当然、同じ「改憲勢力」の公明、維新の賛成が得られる案でなければならない。安倍首相は持論の「要改正項目」のうち、第96条については、第2次内閣発足直後の13年初め、この条項の先行改正論を唱えて猛反撃を食らい、引っ込めざるを得なかったという苦い思い出があり、今回の改憲メッセージでは取り上げなかったが、もう一つ、強く働いているのが公明党への配慮だ。

『安倍晋三の憲法戦争』塩田 潮(著)・プレジデント社刊

副代表兼憲法調査会長の北側一雄氏はインタビューに答えて、第96条について、「硬性憲法は維持すべき。3分の2の要件は維持しなければ」と語っている。さらに前文も変更不要という姿勢を示した。

安倍首相は自身の「要改正項目」の中で、第9条だけは引っ込めなかった。だが、北側氏は第9条への自衛隊の明記についても、「安全保障法制をあそこまで整備した今、急いでやるべきかどうかというと、現実の必要性はないと思う」と述べている。考えに開きがある公明党を、今後、「自民党主導型」で押し切ることができるかどうか。

それだけでなく、自民党内も一枚岩とはいえない。現段階での第9条改正に否定的な岸田文雄外相や、12年に自民党が策定した改憲案(日本国憲法改正草案)との整合性などを問題にする石破茂元幹事長など、異議・異論も多い。