そうはいっても、私たちは恐いと思うことには警戒する。たとえば、隣に空き巣が入ったことを知ると、戸締りに対して神経質になり、よりいっそう警戒してしまうのは当然のことだろう。

同じように、腰痛についての心配や不安、恐怖心がある限り、朝から晩まで腰痛のことを警戒してしまうことになり、痛み関連脳領域を興奮させ続けてしまう。また、「脳」には過剰な興奮を鎮めるシステムが備わっているのだが、このブレーキの役目をはたす細胞は、不安や恐怖で委縮してしまうこともわかっている。

本を読むだけで腰痛が改善する

──では、警戒心をもたないためにはどうすればいいのか?

それは難しいことではない。「恐い」と思う代わりに、「安心」できればいいだけの話。

しかし、「安心」するためには、正しい知識が必要となる。そのための最適な方法が「読書療法」といわれている。これは実際にアメリカ内科学会とアメリカ疼痛学会の最新の腰痛診療ガイドラインでも強く推奨されている。

──なぜ、本を読むだけで腰痛が改善するのか?

それは、本を読むことで最新の正しい知識を得ることができれば、腰痛への恐怖心が消え、結果的に安心を得ることにつながるからだ。

腰痛は恐くない。たとえものすごく痛くても、ほとんどの場合、腰ではそうたいしたことは起きていない。そもそも、急性の腰痛は放っておけば自然治癒するもの──そんな正しい知識があるかないかの差が、その後の経過に大きな影響を及ぼしているのだ。

腰痛は「安全」だと考え方を変える

本気で腰痛とさよならしたい人は、まず科学的根拠に基づいて書かれた本を読むことをおすすめする。腰痛が恐くなくなることこそが、腰痛改善への近道だからだ。

今日現在、腰痛に対して、なにをすればいいかはもうわかっている。腰痛は「安全」だと考え方を変え、「勇気」を持って身体を動かすこと。これが現時点で、世界最高の腰痛改善法であり、もはやそこに腰の「治療」は必要ない。

ギックリ腰を一瞬で治してしまったさんまさんの話をテレビで観ていたほとんどの人は、おもわず「ホンマでっか!?」とツッコミをいれたに違いない。しかし、最新の腰痛研究について学んだ人なら、「ホンマですよ!」とおもわず身を乗り出したはずである。

伊藤かよこ(いとう・かよこ)
1967年大阪府出身。東京都在住。鍼灸師。会社員時代に「椎間板ヘルニアによる腰下肢痛」の診断を受け、その後2年にわたり3度の入院と手術を経験。2000年はり師・きゅう師免許取得後、神奈川県で鍼灸カウンセリング治療院を開業。腰痛をはじめさまざまな心身面での不調に悩む多くの患者さんと対話を重ねる。2016年11月、世界初の腰痛改善小説『人生を変える幸せの腰痛学校』を上梓。現在は心と身体に関する講演や勉強会などを中心に活動。
(イラストレーション=かとうゆめこ 撮影=椎名トモミ)
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