配信先によってユーザー傾向は違う

結果を見ると、A社では「1」の記事が、B社では「2」の記事がより多くの人に読まれた。

これまでもA社では、カルチャー系の記事がよく読まれる傾向にあった。子どもの頃に「ドラクエ」や「ファイナルファンタジー」で遊んだ世代のユーザーが多いようで、「スクエニ」(スクウェア・エニックス)という言葉に興味をひかれたと推測される。

一方、B社では、ビジネスやテクノロジー関連の記事が好まれることが多い。硬派なニュースを好むユーザーがかなりの数いるようで、今回は「精算が5秒で完了」という部分に関心が持たれたようだ。

それぞれ使っているユーザーの傾向が違うのだから、タイトルや画像を変えて配信していれば、さらに多くの人に読んでもらえた可能性がある。そういった具合で、分析をし、仮説を立て、プラットフォームに合ったコンテンツ生成をしていくのが、分散メディアとしてのホウドウキョクの基本戦略だ。

コンテンツを作っている者ならば、1人でも多くの人に伝えたいと思うのは当然だ。特に災害情報や生活に直結する制度に関する記事などは、「何としても多くの人に届けたい」という使命感がある。コンテンツの中身は素晴らしいといくら自信を持っていても、ユーザーに届かなければコンテンツを作っても意味をなさない。

「音声なし」の動画を作るべき

ユーザー属性の違いだけではない。テレビやユーチューブで音声ありの動画を見ている人も、フェイスブック上で動画を見るときは、消音にする人がほとんど。それならば、音声なしでも見られる動画を作るべきと考える。リアルタイムなら党首討論を最初から最後まで見る人も、見逃してしまってアーカイブで見るときは全部を見たくはないと思ってしまう。それならば、短く編集するか、テキストやイラストで見られるようにしてあげるべきと考える。それらはすべて、ユーザーの利便性を考えれば当然出てくる発想だ。

こうした取り組みのかいもあって、さまざまなプラットフォームでホウドウキョクという固有名詞に触れていただく機会が増えている。冒頭に紹介した「ホウドウキョクという名前を最近よく見かけるので気になっていた」という方々にリーチできたのも、分散メディア戦略があってこそだ。

これまでは分散メディア戦略を中心にメディアの規模を拡大してきたが、2017年5月にアプリをリリースした。これまで述べてきたように、ホウドウキョクでは常に仮説を立てながらさまざまなコンテンツを作り続けている。しかし、他社でも模倣可能なものが多い。そんな中、新興メディアや新聞社ではなかなかまねができないコンテンツがある。それがホウドウキョクの原点である「ニュースのライブ配信」だ。

原点は「ニュースのライブ配信」

ライブ動画を編集したり文字にしたりすることで、短い動画やテキスト記事、イラストなどのコンテンツに作り変えることはできるが、その逆は不可能。ライブは模倣困難性が高く、ホウドウキョクにとっての武器と言える。

そして、この「ライブ」という長所をユーザーに最大限有効に使ってもらうには、ホウドウキョクで"最適なプラットフォーム"を作るしかない。

「ホウドウキョク」アプリのイメージ画像

アプリなら緊急時にプッシュ通知でライブ配信スタートのお知らせを受け取れる。「ライブ番組をずっと見続けたいとは思わないが、SNSやゲームなど他のアプリを使いながらならニュースは知りたい」というニーズに応えて、ライブ配信の音声だけをラジオ感覚で再生できるようになっている。

こうした機能が他のプラットフォームで不足している。それにもかかわらず、自社で開発することなく、他社の機能やアルゴリズムに合わせているだけでは、ユーザーのニーズに本当に応えているとは言えないのではないか。

そのため、アプリを誕生させた。今はスタートラインの段階で、完成形にはほど遠い形だと思っているが、今後もさらに機能をアップデートしていくロードマップができている。ホウドウキョクの戦略は、アプリ登場によって、次の段階に突入した。ぜひ今後に期待していただきたい。

清水俊宏(しみず・としひろ)
「ホウドウキョク」(https://www.houdoukyoku.jp/)などフジテレビのニュースコンテンツ戦略のリーダー。2002年報道局に配属され、政治部(小泉首相番など)、新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出、ニュースJAPANプロデューサーなど。現在はコンテンツデザイン部に所属し、報道、広報、VR事業部を兼務。文化放送「The News Masters TOKYO」にレギュラー出演(月曜)している他、NewsPicksプロピッカー、ハフポストブロガー、民放連ネット・デジタル関連ビジネス研究プロジェクト委員としても活動。

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