ホウドウキョクが誕生したのは2015年4月1日。当初は24時間ニュースチャンネルとして、動画配信サービス「FOD」やスマホ向け放送局「NOTTV」にライブ番組を提供していた。スタジオには大物ゲストが次々登場するなどニュースを量産していたほか、茨城・常総市で発生した水害で、住宅の屋根にいた親子が濁流にのまれて救出されるまでの一部始終を生中継し、フジテレビが2016年度の新聞協会賞を受賞することになった。

米国で学んだ「分散メディア戦略」

サービスが転機を迎えたのは2016年6月、NOTTV自体がサービスを終了したこと。ホウドウキョクのオリジナルサイトで24時間ライブストリーミングのサービスを継続するかどうかの課題に直面した。

リニューアルのため、私はアメリカへ渡り、ABC Newsなどのテレビメディア、HuffPost、BuzzFeed、Viceなどの新興メディア、フェイスブックやユーチューブなどのプラットフォームを視察し、それぞれの取り組みや戦略を聞いて回った。そこで確信したのは、ホウドウキョクのとるべき戦略は"分散メディア"である、ということだった。

「ホウドウキョク」の運営責任者・清水俊宏氏

分散メディア戦略とは、ライブ動画だけではなく、短い動画やテキスト記事、イラストなどコンテンツを多様化させ、さまざまなプラットフォームに"分散"させて届けるというものだ。

しかし、日本では「ネットなどにコンテンツを分散して出すと、テレビを見る人が減ってしまう」という考えが根強い。そのため、動画コンテンツなどを他媒体やSNSに出すのに慎重なことが多い。

そのことをABC Newsで聞いてみたところ、担当者に大笑いされた。

「かなり昔にアメリカでもその議論はあった。だけど、すでに過去の問題だ。トランプのスクープインタビューをとった時に、『テレビで出すまではネットに流すな』という声があがった。結局、ネットに出したんだけど大きな話題となって、結果的にテレビで見る人も増えた」(Paul R Dolan氏)

ネットの取り組みを強化することはテレビを強化することにつながるというのだ。

どちらのほうが読まれたか?

ホウドウキョクの記事や動画などのコンテンツは、SNSや他のプラットフォームで見てもらうことを想定している。しかも、それぞれのコンテンツは可能な限り、「各プラットフォームに合わせたタイトル、映像、字幕にすること」を心がけている。

例えば、同じ記事や動画でも、「フェイスブックとユーチューブに掲載されているVTRの編集がちょっと違う」「dTVに出している動画だけタイトルの字幕デザインが違う」「ヤフーとスマートニュースに出ている記事を見比べたらタイトルの内容が違う」など、いくつか違いに気づくことがあるだろう。

プラットフォームによってユーザーの属性や好み、利用環境が違うための対応だ。作業量としては決して少なくないが、デジタルの世界で受け入れてもらうために優先度は高い。

ひとつ例を出してみたい。以下は、どちらもホウドウキョクに掲載した記事だ。皆さんなら、どちらの記事を読みたいと思うだろうか?

1.「ゲームや漫画は遊び放題!『スクエニ』の社員食堂を訪問」

2.「精算が5秒で完了! ストレスフリーな社員食堂」

この2つの記事に関しては、ニュース配信サイトのA社とB社に、同じ時間に同じタイトルのまま配信をした。