プラネタリウムのプログラムは、次第に地球を飛び出して、「宇宙旅行」となります。太陽系の惑星をめぐり、太陽系から離れて銀河系を眺め、銀河系から離れて多くの渦巻く銀河を俯瞰する……。宇宙ってなんて広いんだろうと感じてもらう瞬間です。
投影前に患者さんの誕生日を聞いておいて、一人ひとりの星座を見せたり、その人が生まれた日の星空を見せたりすることもあります。ほんの些細なように思えることでも、彼らの一人ひとりの様子を見ていると、明らかに変わっているのがわかります。体は動かなくても、目をキラキラと輝かせたり、集中して気をつけないとわからないくらいでも、指が動いていたり……。彼らにとって、星空が何らかの刺激になっているのです。
「ああ、すごいな、星空がこんなに力を与えるんだ」と思うと、私も胸がいっぱいになります。
広い宇宙の中で自分が生きていることは奇跡だ
自然や宇宙には人を生かす力が潜んでいますね。いにしえからある神話や星座の物語は、昔の人も私たちと同じ空を見つめながら考えたり、感じたりしたことがあったのだということを教えてくれます。「私たちはどこから来て、どこへ行くのだろう?」――。そんな哲学的なテーマも、きっと昔から多くの人が星を見上げて考えていたのだろうと感じさせられます。
特に、常に生死と直面している患者さんたちにとって、「私たちはどこから来て、どこへ行くの?」という問いは根源的なテーマであるはずです。星は、きっと一人ひとりの心に何らかのメッセージを投げかけているのでしょう。
これまでの活動の中で、長期入院のため精神的に不安定になった小学生の男の子が、院内学級には行かないのに、プラネタリウムには参加してくれて楽しんだとか、朝はとても調子の悪かった子が星のお話をするようになったとか、そういうことが度々ありました。また、「広い宇宙の中で自分が生きていることは奇跡だと思った」という中学生のお子さんの感想など、うれしい報告を聞かせていただくこともよくあります。
できることがかなり制限される長期入院生活のなかでは、子供たちは何かをしたいという気持ちを抑えてしまい、願うことを止めてしまう子もいます。でも、プラネタリウムを見ることで、生きているすごさを実感したり、わくわくする気持ちを思い出したりしてくれればうれしい。そうしたプラネタリウムがもたらす何らかのプラスの効果を定量的に示す研究方法も模索していこうと考えています。