自分が住む日本を深く知る機会になる

三宅義和・イーオン社長

【三宅】非常に重要なところです。日本人なのだから、少しぐらい英語が苦手だとしても、海外の人とコミュニケーションをしていくには、聞く姿勢が大事だということですね。その上で、相手が話してほしいことを英語で説明するに当たって、濱田さんご自身が困ったというようなことが何かありますでしょうか。また、その際はどのように切り抜けられましたか。

【濱田】文化財の見学や日本文化の体験において、説明で行き詰まってしまうのは、こちらの知識が不足しているからです。私だけかもしれませんが、日本人なのに、学校で日本史を学んだのに、驚くほど日本のことを知らないし、説明できない。それだけに、最初の頃は何度も恥ずかしい、情けない、悔しい思いもしています。

例えば、奈良の法隆寺に行けば五重の塔があります。外国人観光客の人が「あれは何のために建てられたのですか」と質問してきても、寺院建築や仏教史の知識がないと答えられません。ちなみに、寺にある塔はお釈迦様の骨を納めるためのものだそうです。そういった知識の勉強をし、わかりやすく伝える練習をしていれば、適切な説明を通じて、ゲストに歴史や文化への興味を深めてもらえたかもしれません。

大事なのは、その文化財や文化的行事が、なぜそのような形なのか、なぜその場所にあるのか、どのような物語があったのかを理解してもらえるよう、わかりやすく興味深く、時には詳しくゲストに説明することと思います。その結果、自分自身も日本の歴史や文化への興味が高まり、勉強してさらに詳しくなれるのも、ボランティアガイドの魅力のひとつだと思います。

【三宅】よく、日本企業の社員が海外勤務になりパーティーなどで欧米のビジネスマンの「リベラルアーツ」、いわゆる哲学や文学に対する教養や造詣に圧倒されると聞きます。彼らと対等に付き合うには、そうしたセンスも磨かなければいけないわけですが、それに一脈通じる話ですね。

何より自分自身が住んでいる国を知る機会にもなります。そういう経験でもなければ、一生考えない問題かもしれません。と同時に、ガイドしている相手から教わり、触発されることも少なくないと思います。みずからの成長にもつながることです。

一方で、外国人観光客誘致に際しては「おもてなし」という言葉が使われます。幅広い意味があるとは思いますが、ボランティアガイドをする上で、どのような心構えで臨むことが必要でしょうか。

【濱田】有意義な観光を楽しんでいただくためにも、私たちでできるアドバイスやサポートが大事だと思います。それが、もてなすという行為です。ただ、それだけではホテルのコンシェルジュ的で、受け身のもてなしになってしまい面白くありません。

関西人は一般的にお節介と言われます。頼まれてもいないことまで世話をする。「知らないかもしれないけど、あそこはお薦めだよ」といった具合です。何しろ地元のことについては、その人が一番詳しいわけですから、ガイドとしての立場ならそれができます。相手の希望を聞き出しながら、相手の興味に合いそうなところは自信を持って押す。このバランスが良いガイドが理想的だと思います。

【三宅】なるほど。海外から来られた方は、必ず自分の興味を持っているはずです。しかし、目的地には自分の知らないものがいっぱいあります。それを地元の人に語ってもらうことで、初めて気づくということが当然あるでしょうね。

【濱田】関西、とりわけ奈良や京都といった日本の古都に関心をお持ちの人たちは、インターネットやガイドブックで事前に調べてから来日します。世界遺産などについても、実に詳しいわけです。それはそれでいいのですが、日本には、そして関西には、観光ガイドブックなどには載っていない、地元の人たちが楽しむ場所や食事も豊富にあります。

そうしたことを知って体験してもらうのも観光の醍醐味だと思うんですね。いわゆる「富士山・芸者」だけではない日本の魅力を発見してもらうことになります。また、ボランティアガイドだからこそ自由度の高い案内ができるのではないでしょうか。