二重三重というのはトランプ大統領を取り巻く権力構造のことだ。大統領の一番の側近は長女であるイヴァンカ氏であり、娘婿のジャレッド・クシュナー氏。伝統に反してイヴァンカを大統領補佐官に、クシュナーを大統領上級顧問に起用しホワイトハウス入りさせている。シリア空爆の理由について、トランプ大統領は「独裁者が罪のない市民に恐ろしい化学兵器を使用したから」と説明しているが、アサド政権が化学兵器を使用したことを示す明確な証拠は出ていない。大量破壊兵器を隠し持っているという理由でブッシュ政権がイラク攻撃に踏み切ったのと同じパターンだ。なぜ確たる証拠もないのにシリアを空爆したのか。米メディアではイヴァンカの影響力がまことしやかに囁かれている。3児の母である彼女が「毒ガスで赤ちゃんが殺されるなんて、ひどすぎる」と泣いて訴えたことで、トランプ大統領は空爆を決断したというのだ。義理の息子クシュナー氏の大統領上級顧問という立場はあらゆる政策や人事に関与する要職で、実際、外交や議会対策で大きな影響力を発揮していると言われている。トランプ政権の中枢はまさにファミリー経営なのだ。

トランプ大統領の娘、イヴァンカ・トランプ氏(右)とその夫、ジャレッド・クシュナー氏。(AFLO=写真)

イヴァンカ、クシュナーのファミリーに次ぐトランプ大統領の側近がスティーブ・バノン氏(大統領首席戦略官・大統領上級顧問)とピーター・ナヴァロ氏(新設の国家通商会議委員長)である。大統領選のキャンペーンにおいてバノン氏は選挙対策本部長に、ナヴァロ氏は政策アドバイザーに起用されて、トランプ陣営の思想的な支柱になった。2人はそのまま政権の中枢に登用され、トランプ大統領が連発している大統領令は右翼系ニュースサイトの会長をしていたバノン氏が書いたものといわれる。

さらにトランプ政権の権力構造の三層目にいるのが、軍人やウォールストリートの経済人たちだ。たとえば国防長官のジェームズ・マティス氏は元アメリカ中央軍司令官でイラクにも出征した生粋の軍人。国務長官のレックス・ティラーソン氏は石油メジャー最大手のエクソンモービルの前会長で、ロシアの石油資本やプーチン大統領との関係も深い。彼らのようなプロフェッショナルは政権発足後に調達された人材で、必ずしもトランプ大統領の言うことを「Yes,Sir」とは聞かない。大統領選とは縁もゆかりもないから、キャンペーン中の大統領の発言も知ったことではない。彼らにとって重要なのは軍人としてのプライドや国益。朝鮮半島有事に備えてカールビンソンを動かしたのも、トランプ大統領の判断ではないと私は思っている。