一方、「一休さん」というテレビアニメに出てきた有名な話がある。仕事のご褒美に何が欲しいか聞かれ、一休さんはこう言った。「この六畳一間の畳のスミに、今日は1粒の米を、明日はその倍、明後日はその倍、全部で24日(畳六枚でスミが24カ所ある)働くので一日ずつ倍にしていってください」。
はたして24日後に一休さんがもらった米粒の総数はどれだけだっただろうか。結局、最後の24スミ目には840万弱の米粒(ざっと180kgくらいの米の量になるようだ)が置かれることになり、一休さんはあわせて500kgの米を手に入れることになった。
複利の奇跡の話に富裕層は敏感に反応
細かい数字に多少の誤りがあるかもしれない。その点はご容赦願いたいが、要するに言いたいことは「複利は奇跡を生む」ということだ。もちろん複利の果実をとるには大前提がある。それは「そのままにしておく」という、勇気と言ってもいいくらいの、そしてなかなかできない大前提だ。それが「絶対に負けない」大前提であるからこそ、このような複利の奇跡の話に富裕層は敏感に反応する。
「ここにこうすれば必ず増える、少なくとも減ることがない」という商品性を富裕層は見逃さない、というわけだ。それこそ都市伝説のような話として、富裕層はケチだ、というものがあるが、これは間違っている。商品やサービスのサプライヤーが、「必ず勝てると思われる」ように商品設計していないことに起因するのだ。無論お金が増えるような類の話のみならず、精神的満足度が期待感以上になる、という商品やサービスも含めて、だ。
「マゼランファンド」という伝説的なファンドで責任者を務めた投資家のピーター・リンチ氏は、「IBMを買って株が下がってもファンドマネジャーはクビにならないが、私のように創業まもないダンキンドーナツに投資して失敗したらあっという間にクビだったろうね」という名言を残している。
しかしながら、ダンキンドーナツ株の長期保有でリンチ氏は大成功、複利の奇跡に浴した。「あそこの駅前の新しくできたドーナツ屋さん、いつも行列なのよ。あたしも並んで買ってきたから、せっかくだから食べてね」という奥さんの一言からダンキンドーナツを調査し始めたという。曰く「アマチュアの知恵でプロを出し抜け」だ。アマチュアの目から見れば、いや、実はアマチュアの目から見た方が、チャンスはそのあたりにいつでも転がっている、という格好の例なのだろう。