専門外について手っ取り早く勉強するには、本を読むしかありませんが、専門用語満載の分厚くて難解すぎるものでは理解できません。そもそも忙しいビジネスマンにそんな時間はないはずです。ですので、その分野の中から薄くて基本的なエッセンスが詰まっている本を探し出し、一気に読むのです。
哲学書なんて、読まなくても済むのなら読まなくていい。下手にハマってしまったら、一生を棒に振ることになりますよ。それはそれで幸せなことかもしれませんが。
とはいえ、海外のビジネスマン、特に米国や欧州のエグゼクティブと仕事をするうえでは、西洋哲学を学ぶことは彼らの考え方や価値観を知る手助けとなるのも事実です。彼らと話をすると、リベラルアーツをしっかり学んでいるな、と感じることが多々ありました。古代ギリシャに源流を持つ哲学や思想、そういった教養を子どもの頃に叩き込まれているのですね。
それがビジネスにおいても思考の根幹にあり、論理を組み立てている。ですので、グローバルで仕事をするのなら、たしかに哲学の基本ぐらいは心得ておいたほうがいい。しかし、難解だというイメージもあるでしょうし、取っ掛りがわからない方もいるでしょう。
わかりたければ原本に手を出すな
そんな方には、まず木田元さんの『反哲学入門』(新潮社)をお勧めします。文庫本もあり、厚い本ではないのに、プラトンに始まる西洋哲学の大きな流れと、それを断ち切ることで出現してきたニーチェ以降の反哲学の動きについて、わかりやすく解説しています。
プラトンの哲学とは、つまるところ「イデア論」です。イデア論とは、簡単に言うと「一方にイデアという完璧なものがあり、もう一方に不完全なものがある」という2項対立の発想。プラトニズムと呼ばれる考え方です。プラトン以降の哲学者は、主にこのイデア論の解釈を議論し続けているにすぎません。そのあたりの流れを理解するために、『反哲学入門』はおあつらえ向きだと思います。
ただ、この本だけだと西洋哲学の最高到達点と言われるカントの理解がやや手薄ですので、補足として黒崎政男さんの『カント「純粋理性批判」入門』(講談社)も読むとよいでしょう。
ここで注意してほしいのは、原本を読まないこと。最近の書籍はそうでもないのでしょうが、日本の哲学書の翻訳は、「内容を理解できていない人が理解できたフリをして翻訳した」節があると私は考えています。であるがゆえに、必要以上に難解に見せかけられた文体になっている。そんなものに手を出すのであれば、わかりやすく書かれた解説書を読むほうがよほどいい。