次から次へと新しい情報が舞い込み、消化しきれないままパンク状態!? 私たちが情報化社会で生き抜くために必要なのは、ただ単に知ることではなく自分のなかで消化して“使う”こと。津田塾大学教授 萱野稔人さんが、その礎となる10冊をご紹介。

情報が錯綜(さくそう)する現代です。情報というと、とにかく新しいことをいろいろ知っていなければ、と思いがちですが、複雑になるいっぽうの世の中で、全方位の情報を網羅して知ろうとしても無理です。

そこで重要なのが、出来事の本質をつかまえ、方向性を知るベースを持つこと。いまのような複雑な世界になったのは、さまざまな歴史的経緯が積み重なった結果です。ですから、いま起きていることを過去の歴史からの幅広い時間軸のなかで捉え直してみると、なぜこういうことが起きているのか、今後どんな展開になるのかが見えやすくなります。そのための羅針盤となる本を挙げました。

たとえば、中国はまもなくアメリカを抜いてGDPで世界一となるでしょう。しかし、それで終わらせず、『銃・病原菌・鉄』で、西洋文明が世界をリードしてきた歴史や、『2030年 世界はこう変わる』で、米中の対立やアメリカが世界をどう見ているのかを知ったうえでそのことの意味を考えると、今後の世界情勢や私たちの生活への影響が読み取れます。

また、インターネットによって人々のコミュニケーションの在り方は根底から変わりましたが、その変化は人間にどういう影響があるのか。それを知るためにも、人間とは何かということを考える必要があります。従来は哲学や社会学などが人間の本質を追究する専門分野だと見なされていましたが、近年では脳科学や認知心理学などの最先端の成果のほうが、人間について詳細に解明している場合もあります。『ヒトの本性』『ヒューマン』などは、哲学者の私も、哲学の出番はもうないのではないかと危惧を覚えるほど新鮮な指摘に満ちていて、刺激を受けました。

知識は持っていることより、いかに使うかが大事です。これらの本も「問題を整理するのにどう使うか」という視点で読めば、本当に使える知識が身につきます。

▼人間とは何かを科学的に探る

(左から)『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』川合伸幸/講談社現代新書、『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』NHKスペシャル取材班/角川文庫

『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』川合伸幸/講談社現代新書
最新の脳科学は下手な哲学や人文科学以上に人間への深い洞察を示している。人間は暴力を振るい殺し合うこともあれば、協力し合うこともある。それはなぜか。そのメカニズムを最新理論で解き明かしていく。俗な心理学や占い本では決してわからない人間の本質が見えてくる。

『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』NHKスペシャル取材班/角川文庫
ヒトが脳を持ち、現在の人間となった過程を探る。人間性の起源を研究する各科学分野やフィールドワークの最新知識、理論を的確にまとめてあり、要点がつかめる。人類史上、現在の少子高齢化は異例の事態。心の進化を科学的に知ることで、現代社会の問題も深く広く考えられる。