「車種の使い回し」でもお客をひきつける方法

同社の売り上げの6割を担う二輪事業には、新興国と先進国で全く異なる需要がある。日常の足として二輪車が使用される前者に対して、後者では趣味性の高い製品が求められるからだ。

しかし、エンジンやフレームを共通化する「プラットフォーム化」は、商品開発や生産ラインを効率化できる一方、一つひとつのモデルの個性を犠牲にすることにも繋がりかねなかった。

技術本部長 島本 誠氏

技術本部長の島本は次のように言う。「中身がボディによって隠されている四輪と異なり、二輪車はエンジンやフレームが剥き出しになって見えている商品です。プラットフォーム化は部品をとことん共用してコストを下げる作り手側の論理であって、『ああ、これはあの車種の使い回しだ』とお客様に感じられてしまっては全く意味がありません。それをどうバランスよく行うかが、当時からの大きなテーマとなっています」

それ以前の同社における製品開発は、ニューモデルごとに新しいフレームやエンジンを設計することで、「ヤマハらしさ」という個性を表現していた。そのため、部品の共有化やフレーム・エンジンのプラットフォーム化が進められると、「ものづくりが制約されるんじゃないか」「ベストが追求できなくなるのではないか」という不安が開発者から出てきた。だが、個々のモデルの生産台数は限られており、在庫が工場に積みあがっている状況のなかでは、これまで通りのやり方で開発を続けることは限界を迎えていた。(後編につづく)

稲泉 連(いないずみ・れん)
1979年生まれ。2005年に『ぼくもいくさに征くのだけれど 竹内浩三の詩と死』(中公文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『豊田章男が愛したテストドライバー』(小学館)、『「本をつくる」という仕事』(筑摩書房)など著書多数。
(市来朋久、プレジデント編集部(海江田氏、島本氏)=撮影)
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